COVID-19の初年度に牛乳が余ったことから、牛乳を煮詰めて作る蘇(そ)が流行したことは覚えている人は多いであろう。ただし、蘇(そ)は日本の食文化に連綿と受け継がれてきた食品であるとは言えない。知識として知っている人はいたものの常食とする人は、ゼロとは言えないにせよ決して多いとは言えなかった。
ただし、国境を越えるとその概念は簡単に覆される。
チーズだ。
日本国におけるチーズはそこまで重要視されている食品ではない。デザートであったり、皿の上に軽く乗っていたり、酒のつまみに供されたりといった扱いを受けているのが日本におけるチーズであるが、それは日本国の食生活にそこまでチーズが入り込んでいないからで、チーズが入り込んでいる食文化だと、その地域のチーズの持つ意味は日本の食文化におけるチーズの比ではない。言うなれば、ものすごく固い豆腐といったところか。
本書「チーズのきた道」は、チーズの起源とその進化についての詳細な探求を提供する書籍であり、本書はチーズがどのようにして人類の食文化に組み込まれ、それがどのようにして私たちの食生活に影響を与えてきたかを明らかにしている。モンゴルのホロートから古代ローマのチーズ菓子、フランスのカマンベール、日本の蘇(そ)など、世界中のチーズを網羅している。本書に記された調査は広範で、その結果は深く洞察に富んでいる。
本書は、日本人の概念ではなかなか捉えることのできない食文化の一部としてのチーズの重要性を理解するための素晴らしいリソースである。チーズがどのようにして各地域の食生活に組み込まれ、それがどのようにして現在の我々の食生活に影響を与えてきたかを明らかにしている。
そして、本書の読了後は、チーズが食べたくなる。