德薙零己の読書記録

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繁田信一著「孫の孫が語る藤原道長:百年後から見た王朝時代」(吉川弘文館)

源氏物語の時代、藤原道長は現実であった。

平家物語の時代、藤原道長は理想になった。

厳密に言えば、藤原道長の孫の孫の代はまだ平家物語の時代を迎えてはいないが、時代の趨勢は明らかに武家社会へと変化してきており、平安貴族達は、特に藤原摂関家の面々は、かつて自分達の祖先が隆盛を極めていた藤原道長の時代を理想として追慕するようになり、栄光を蘇らせることを夢想するようになっていった。

本書はそうした、藤原道長の時代から百年後の時代に、藤原道長の孫の孫にあたる藤原忠実の談話集『中外抄』『富家語』を通じて、後世から見た藤原道長の人間像を描き出し、道長の家族や周囲の協力者、政敵、陰陽師をはじめとする部下達など周囲の人々も含めた貴族の振る舞いについて具体的に触れ、百年後から見た源氏物語の時代の貴族社会の姿を追いかけている一冊である。

同時代史料ではなく後世から眺めた史料、しかし、その史料は現在から900年は遡るという歴史的価値のある史料を出典とする源氏物語の時代の描写は、来年の大河ドラマの舞台でもある時代を捉える新たな視点ともなるであろう。

そして、平安時代の貴族社会を生き抜いた藤原道長人間性とその時代背景を深く掘り下げることで、藤原道長人間性、家族関係、政治的な立場など、多角的な視点から藤原道長の影響力とその時代の社会状況を理解することにもなるはずである。