德薙零己の読書記録

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

谷釜尋徳著「スポーツの日本史:遊戯・芸能・武術」(吉川弘文館歴史文化ライブラリー 580)

スポーツと言って何を思い浮かべるか?

サッカーや野球のように屋外で大人数で行う運動競技か?

相撲のように一対一で行う運動競技か?

日本の歴史におけるスポーツの流れとなると、現在のオリンピックに取り上げられるような競技ではなく、相撲や、あるいは蹴鞠や流鏑馬といった競技を思い浮かべるであろう。だが、何も体力を消耗することだけがスポーツではない。現在の日本でいうとボードゲームや、囲碁、将棋、麻雀、テレビゲームもまたスポーツである。いずれも、余暇の愉しみ

本書は、日本におけるスポーツのルーツといえる射技、相撲、蹴鞠、打毬などの営みや行事を先始・古代までさかのぼり、宮廷行事や武芸へと連なる歴史を描きだしている。その中には前述のボードゲームの一種とも言える双六も含まれる。それらのスポーツが日本人の生活の中でどのような位置づけをもち、どのように発展し、どのように受け入れられていったかを記しているのが本書である。

その記述の中には、海外渡来の文化に改良を加えて伝統文化との融合をはかり、日本独特の文化を生み出してきた歴史を、社会情勢や産業の発達とも絡めている点も含まれる。競技として優劣を競うだけでなく、踊り念仏のように集団で愉しむのも、剣術のように鍛錬とするのもまたスポーツとして取り上げるべきところである。

その中でも特筆すべきは相撲であろう。300年前の段階で庶民でも観覧できるプロスポーツとして確立していたのはスペインの闘牛と日本の相撲だけという話があるが、そうした娯楽としてのスポーツを受け入れるだけどの土壌が日本に存在するに至った経緯、その延長上としての近代スポーツの受容の土台を振り返るとき、本書は有用な一冊となるはずである。