德薙零己の読書記録

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

フェルナンド・バエス著,八重樫克彦&八重樫由貴子訳「書物の破壊の世界史:シュメールの粘土板からデジタル時代まで」(紀伊國屋書店)

書物の破壊として思い浮かべるのは、書物の価値を認めない時代の権力者や民衆暴力による結果であろう。焚書のように意図的に知識を捨てさせる目的のこともあれば、書物の価値を知らない人が不要なモノと考えて書物を捨てることもある。小さなところでは家族の本を勝手に捨てる人間なんていうのもあろう。

こちらは本ではないが、同じ思考をしている人間のやらかした、取り返しの付かない失態である。全く同情できない。

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無論、その他の要因で書籍が失われることもある。自然災害の被害を喰らうこともあるし、虫にやられることもある。書籍そのものの経年劣化も無視できない。そうした人為的ではない書籍の破損は全体の40%を占める。そう本書は述べている。

ただ、裏を返せば人為的な書物の破壊は60%に及んでいるのだ。本書に取り上げられている事例を列挙しても、シュメール文明、アレクサンドリア図書館、ナチスによる焚書イラク戦争での略奪、そして、現在も繰り広げられている電子テロと挙がってくる。しかも、その全ての破壊が自分は悪事に手を染めているとは気づいていないという大問題があるのだ。そのことを指摘しても、当事者はその程度の破壊など問題ではない、あるいは破壊などしていないと言い張る。前記のリンク先などは破壊者が正当な処罰を受けただけの、しかし、まだまだ足りない処罰でしかない話であるが、それでも処罰が加わるならまだマシで、多くは何ら処罰を受けることなく、失われる知識を取り戻すこともできずに時間だけが経過することとなる。

さらに恐ろしいことを書くと、本書は736ページの書籍であるが、737ページ目がいつ誕生してもおかしくないという現実がある。それは何も悪意から来るものではない。破壊する本人は善意、あるいは無意識のうちに繰り広げるものなのだから。