德薙零己の読書記録

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今尾恵介著「ふらり珍地名の旅」(ちくま文庫)

「昼飯」「前後」「未明」「海外」「浮気」「青鬼」……

本日の記事のタイトルと紹介している書籍名から想像つくかもしれないが、それらの情報無しに上記の単語を見たときに何のことか理解するのは難しいであろう。

答えから先を記すと、昼飯(ひるい)は岐阜県大垣市の、前後(ぜんご)は愛知県豊明市の、未明(ほのか)は島根県安来市の、海外(かいと)は神奈川県三浦市の、浮気(ふけ)は滋賀県守山市の、青鬼(あおに)は長野県白馬村の地名である。

一見するとふざけた地名に感じる。しかし、地元の人にとっては歴史ある地名であり、一般名詞の熟語のほうが後になって登場したのであるのだから、ふざけた地名だなどと言われる筋合いはない。また、多くの場合はまずカナの地名があり、カナの地名に合わせた漢字を当てはめた結果、後世になって世に登場した一般名詞と漢字表記が重なったというのが実情だ。

その上で、さらに地名の歴史を眺めると、漢字表記に揺られた由来が登場するケースと、カナ表記に由来できる地名が登場するケースとが出てくる。漢字伝来前の日本語を探すにはアイヌ語での意味を捉えると納得できるケースが多い。本書においても著者は地名の由来をアイヌ語、より正確に言えば縄文時代の日本語にまで遡ることで地名の由来を導き出している。

さらに着目すべきは、本書で取り上げている地名の場所に著者自身が足を運んでいることである。机上の空論ではなく実地調査に徹してその結果を本書に書き記していることである。奇妙な地名ということで、その地名の場所に向かう観光客のことを考えてくれているのはありがたい。

想像していただきたい。神奈川県三浦市まで出向いて「日帰り海外旅行」を実現させたらどうなるかを。なかなかに面白いことになるのではなかろうか?