德薙零己の読書記録

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

今尾恵介著「地図で読む戦争の時代:描かれた日本、描かれなかった日本」[増補新版](白水社)

21世紀の現在、日本の書店では簡単に地図が手に入る。かつてはそうではなかった。現在でもそうではない国が存在する。

なぜか?

多くの場合、地図を作成するのはその国の陸軍であり、海図を作成するのはその国の海軍である。国土を守ることが大前提であり、その上で国民の日常生活に利用できる地図を提供する。するとどうなるか?

軍にとって知られたくない情報を隠した地図と言うことになる。戦前の日本は日本国内の各地に基地を設置しており、軍事工場を配備しており、軍事用の線路を敷いていた。そして駅名には軍事関係の駅名が珍しくなかった。それらの情報は戦時色が強まるにつれて秘匿されるようになり、駅名は変更され、都市内に配されていた路面電車も戦争優先へとなった。当時の地図にはそうした変更が盛り込まれていた。同じ場所の地図なのに、年を経る毎に地図に記されている情報が減っていくのである。

さらに、その国の主張が盛り込まれた地図が作成されることとなる。

ある程度想像つくと思うが、ロシアの地図は日本領千島諸島に勝手にロシア語の地名をつけているだけでなく、国境線を勝手に西に動かしている。この間違った地図も、そう遠くない未来「侵略などするような野蛮人は地図もまともに作ることのできない愚人であった」と嘲笑の対象にする以外に意味を持たぬものとなるであろう。