書物はかつて高級品であった。西洋中世では空前の規模の図書館を構えている修道院とされるところでも書架に100冊の書籍を置いているかどうかであった。書籍一冊の値段が家屋一軒の値段に相当し、書物は全て写本であったために一冊を作り上げること自体がそもそも困難であった。
一般に、グーテンベルクの活版印刷の発明で書物の大量普及が始まったとされているが、そして、その認識も間違いではないのだが、それでも書籍は高かった。そして、もっと大切なこととして、識字率が低かった。その結果、どのようなことが起こったか?
実は、書物を黙って読むのは少数派であったのだ。書物は朗読するものであり、朗読を聞くこともまた読書であったのだ。
本書は、書物の歴史とその影響についてまとめた一冊であり、書物の進化が人類の思考と行動にどのように影響を与えてきたかを探求する一冊である。
中世の写字生からグーテンベルク、蒐集家、偽作者、伝統を守ろうとした改革者たちまで、書物の歴史を追いかけると、書物を愛し、書物に愛されて生きてきた人々が数多く存在してきたことが読み取れる。本書はそうした人達の足跡を追いかけることで、書物の世界を鮮やかに描き出している。当初は巻物であった書物は冊子になり、朗読から黙読へと変化していった過程を追いかけることで、書物と人間の関係の深さと複雑さを浮き彫りにしている。