いささめに読書記録をひとしずく

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吹浦忠正著「国旗の考現学」(エムディエヌコーポレーション)

現時点で唯一、役者が自分を演じて大河ドラマに登場していることを著者自身が著書で言及しているのが、本書の著者である吹浦忠正氏である。

本書は上記の「はじめに」の記述のインパクトが強すぎて本書の本文についての言及が乏しくなってしまっているが、本文についてもなかなかどうして、昭和39(1964)年のオリンピックにおける国旗のエピソードにはじまり、ニュージーランドやオーストラリアにおける国旗変更の試みとその国ならではの事情、ようやく独立を勝ち取り、ようやく堂々と掲げることができるようになった国の高揚感、国旗そのものがその国のイメージとして広く広まること、日本国内でやろうものならただちに逮捕されるであろう国外での国旗に対する扱い。こうした国旗の歴史とその背後にある意味を探求することで、本書は読者に新たな視点を提供してくれる。特に各章単位で、特定の国や地域の国旗がどのように発展し、それがその国の歴史、文化、政治にどのように反映されているかを詳しく説明しているのがありがたい。

その語り口は鮮やかで、時にはユーモラスで、読者を引きつける力がある一方、単なる情報の集積ではなく、国旗が国家のアイデンティティと自己表現の重要な手段であること、そして、国旗が歴史的な出来事や社会的な変化を反映する一方で、それ自体がこれらの変化を形成し影響を与える力を持っていることを示している。

本書は国旗という一見単純な象徴が、実際には複雑で多面的な意味を持つことを明らかにする魅力的な読み物である。それは、歴史、地理、政治、文化に興味がある読者にとって、有益で洞察に富んだ一冊となるであろう。