德薙零己の読書記録

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フィリップ・アギヨン&セリーヌ・アントニン&サイモン・ブネル著,村井章子訳「創造的破壊の力:資本主義を改革する22世紀の国富論」(東洋経済新報社)

資本主義の未来と持続可能な成長について、経済成長に主眼を置いて分析している一冊である。特にCOVID-19の影響を受けた現代社会についても最新の研究成果によって分析していることは、今まさに体験したことが歴史と連綿と続いているのだと痛感する。

本書の主軸は、創造的破壊の力を理解し、それを持続的で平等な成長に結びつける方法についてである。また、過去のイノベーターが未来のイノベーターの邪魔をするのを防ぐ方法、創造的破壊が雇用を破壊し、健康や幸福に及ぼす負の影響を抑える方法、創造的破壊を好ましい方向に効果的に向かわせる要因についても探求しており、以下が本書の章構成である。

  • 第1章 新しいパラダイム
  • 第2章 テイクオフの謎
  • 第3章 技術革新を恐れるべきか?
  • 第4章 競争はほんとうに望ましいのか?
  • 第5章 イノベーション、不平等、税制
  • 第6章 長期停滞論をめぐる論争
  • 第7章 中所得国の罠
  • 第8章 工業化は絶対に必要か?
  • 第9章 グリーンイノベーションと持続可能な成長
  • 第10章 イノベーションへの道
  • 第11章 創造的破壊、健康、幸福
  • 第12章 創造的破壊のファイナンス
  • 第13章 イノベーショングローバル化
  • 第14章 投資家としての国家、保険者としての国家
  • 第15章 市場・政府・市民社会のトライアングル
  • 終 章 資本主義の未来

本書において特に注目すべきは、著者たちが創造的破壊が雇用や健康、幸福に及ぼす影響について語っている部分にある。経済成長と社会的公正の間のバランスをどのように保つかという重要な問題に光を当てているからである。元々がフランスの研究者がフランスで刊行した書籍の邦訳ということでフランスについての記述が多くを占めているが、本書の中には世界の経済における特異点として明治維新と戦後の高度経済成長、そして、現時点で体感している長期的な衰退の観点から日本を取り上げている。その中には多少の誤謬、特に江戸時代の識字率についての誤りがあるが、それでも本書は日本語話者に向けて、資本主義の未来を考える上で非常に価値がある一冊と言える。それは、持続可能で公平な成長を達成するための新たな道筋を示してくれるところからもおわかりいただけるであろう。