いささめに読書記録をひとしずく

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おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

シルヴィア・ナサー著「大いなる探求」(新潮社)

30年以上前に滅亡したソビエトに対する誹謗中傷は多々ある一方、数少ないながらも評価する声はある。

その中でもよく耳にする評価の声として「少なくとも世界恐慌の影響は受けなかった」というのがある。1929年からの世界的大不況がどのようなものであるかを知れば知るほど、1930年代のソビエト大恐慌の影響を受けることなく過ごしたというのは評価すべきことになるであろう。

この本を読むまでは……

本書は、上巻「経済学を創造した天才たち」と、下巻「人類は経済を制御できるか」の二巻からなる本である。19世紀から20世紀にかけて活躍した経済学者たちの知的格闘を描いた書籍であり、経済の視点から眺めた近代史の書籍でもある。

その中にはソビエトの企んだ共産主義の現実についての記載もある。

ここ記されているのは、伝説を全否定するソビエトの現実である。「失業率は25%を数え、70%は恐慌前の生活水準に落ち込み、残る5%は家族ともども餓死した」が「世界恐慌の影響は受けなかった」の正体なのだ。ソビエト大恐慌の影響を受けないことに成功したのではない。大恐慌の影響を隠蔽することに成功したのである。

本書で取り上げるのはマルクスだけではない。ケインズの『一般理論』、ハイエクの『隷属への道』、アマルティア・センの『不平等の再検討』に至るまで、経済学史の主要な流れを概観している。また、各経済学者の理論が、当時の社会や経済情勢の中でどのように生み出され、どのように展開していったのかを、豊富なエピソードを交えて解説している。

本書を読むと、経済学とは単に数字や理論を扱う学問ではなく、私たちの社会や経済をより良くするために、人類が長い間試行錯誤してきた学問であることが理解できると同時に、経済学者とは、単に頭の良い人ではなく、社会や経済に深い洞察を持ち、それを解決するためのアイデアを生み出せる人々であることがわかる。

本書は、経済学に興味のある人だけでなく、社会や経済について考えるすべての人におすすめの書籍となっている。