いささめに読書記録をひとしずく

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おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

牧英正著「人身売買」(岩波新書)

この本について書いたことがTwitterのセーフワードサーチで引っかかったことをネタにしたが、この本は断じてボケネタのための本ではない。この国にかつて存在した、そして、おそらくは現在でも存在している現実を記した本である。

人身売買を許容する人などいない。それでもなお人身売買が存在しているのかを考えたときに、忘れてはならない視点がある。

人身売買の多くは、親が子を売るという構図である。子は被害者であり、親は加害者である。

ならば、子を売らないとどうなるか?

親子共々、死が待っている。

生きていけなくなっているときに選ぶ最後の手段が人身売買なのだ。このままでは親子共々野垂れ死にだが、我が子を売れば、我が子も、そして自分も生きていける可能性があるというとき、子を売らないことのほうがかえってさらなる悲劇を生み出してしまうのだ。

このような状況に追い込まれている人に対して責任を求めることは間違っている。本人の怠惰のせいではなく本人が迎えてしまった運命の結果であることもある。病気やケガのために、自然災害を被ってしまったために、戦争の災禍を受けてしまったために、どうしても生活できなくなった家庭に、どうして責任を背負わせることができようか。