本書は、社会において権力を掴むに当たって必然となる人と人とのつながりを
○ タテに伸びる階層制組織(タワー)
○ ヨコに広がる草の根のネットワーク(スクエア)
との関連で捉え、世界史を、特に大航海時代以後の世界史を本作で記している。
本書で取り上げているテーマは幅広い。ルネサンス、印刷技術、宗教改革、産業革命、ロシア革命、フリーメイソン、イルミナティ、メディチ家、ロスチャイルド家、スターリン、ヒトラー、ダボス会議、ヘンリー・キッシンジャー、アメリカ同時多発テロ、リーマンショック、フェイスブック、ドナルド・トランプといった数々の事例を、階層制とネットワークの相互作用が人類の歴史にどのような影響を与えてきたかという視点で分析している。
そこで述べているのは、階層制とネットワークは二者択一ではなく、双方が交わりながら社会を変化させてきたという点であり、同時に、階層制がなければネットワークの脆弱性ゆえに社会は崩壊しかねないと指摘している。
大航海時代以後に限ったことではないが、巨大な勢力を持ち、巨大な権力を築くのは、国家であるとは限らない。国境を越えた宗教組織にしろ、東インド会社以後の企業組織にしろ、あるいは革命を意図する組織にしろ、組織は内部に縦のつながりと横のつながりを持っている。
ただし、縦と横との関連は組織によって異なる。
たとえば、GAFAと総称される大企業はそれぞれ内部の組織構造が異なっている。
縦(タワー)の強さと横(スクエア)の強さで言うと
スクエアが強い | スクエアが弱い | |
タワーが強い | Apple | Amazon |
タワーが弱い |
となっている。
前掲の関連も比較的という注記がつく。Facebookは縦も横も弱いと記したが、ゼロではない。Appleは縦も横も強いと記したが、縦も横もそこまで堅牢では無い。
縦のつながりを重要視する組織は、決定が素早く、行動が素早く、トライアンドエラーが素早くなる。ただし、自浄作用は期待できない。本来あるはずのトライアンドエラーのエラーを、エラーと認識することすらなくなる。そのとき、縦のつながりの強さゆえに、堅牢に見えたはずの組織は簡単に瓦解する。
縦のつながりを堅牢としたために自浄作用が壊れ、破滅へと邁進した組織というのは世界史上に数多く存在している。ナチスや共産主義がその例だが、それらはその残虐性と失われた命の多さゆえに特筆されるものの、ナチスも共産主義も特異的な存在では無い。人類史上何度も繰り返されたことである。
一方、横のつながりを強くすればするほど自浄作用が働くやすくなるだけでなく、組織そのものが常に変化に対応できるようになる。時代の流れが進んでも生き残ることのできるのは横のつながりの強い組織である。
この作品を読んだあとで感じるのは、自分が今どのような組織に所属していて、その組織はどのような組織であるのかという点である。
何の組織も関わりを持たない人はこの世に存在しない。どんなに社会から断絶された暮らしをしている人であっても、必ず何かしらの組織に組み込まれている。
リチャード・ボールドウィン氏の著作である「GLOBOTICS」(日本経済新聞出版社,2019)にもあるように、阻害は破滅を招く。
組織に属することは阻害を抑止する一つの方法でもある。
本書は、歴史を新しい視点で見直すことで、現代社会の問題や課題に対する洞察を与えてくれる。歴史を学ぶだけでなく、社会科学や経済学を学ぶ点においても有用な書籍となるであろう。