德薙零己の読書記録

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

脇田成著「日本経済論15講」(新世社)

「どこかで読んだ本と同じようなフレーズやたとえ話が連発しているな」と感じ、その本を探し出し、「そうそう、筑摩選書の『賃上げはなぜ必要か』に書いてあった」からの、「同じ著者だった……」までがルーティーン。
それが本書である。

 

真面目な感想を書くと、この本は、日本経済を学ぶために必要な事実と経済学的知識を

・日本経済はどう変動してきたか
・準備:最小限のモデルとデータ
景気循環パターンの実務家的把握
・停滞の真因:貯蓄主体化した日本企業
・好循環をもたらすマクロのリンク:家計への波及
・金融(1):デフレーションと貨幣数量説
・国際貿易構造の中の日本経済
・国際金融市場が課すグローバルな制約
・金融(2):アベノミクスの誤算と異次元緩和―なぜ物価は上がらなかったか
労働市場(1):格差社会と非正規雇用
労働市場(2)賃上げはなぜ必要か
・政府の役割と財政危機
・人口減少と年金維持
・地方経済の「壊死」と医療介護の疲弊
・日本経済に何をなすべきか

の15のテーマに分けて解説したテキストであり、バブル崩壊以降の日本経済の停滞とその原因、アベノミクスの効果と限界、労働市場の格差と賃上げ、財政危機と年金問題、地方経済と医療介護など、日本経済に関する重要な課題を取り上げている。そのために本書を記した脇田成氏はデータをもとにして実態を分析し、経済政策の論争を整理し、問題解決のための提案を本書にて展開している。その上で読者は、自分の頭で政策を判断するための考え方を身につけることができるというスタイルになっているのが本書だ。

また、この本の特徴としては、読みやすさと実用性が挙げられる。読みやすさとしては、2色刷りで見やすいレイアウトや図表、用語解説や要約などによって実現されていること、実用性は、各章で扱うテーマが日本経済における最新かつ重要なものであり、現実的な政策提案がされていることによって実現されている。さらに、各章の最後には参考文献や関連書籍が紹介されており、さらに深く学びたい読者にも役立つ構成である。

この本は、これから大学で経済を学ぶ者にとって有用な一冊になるだけでなく、職場に本を置いておくことのできるビジネスパーソンにも勧めたい。

業務マニュアルなどとともに自分で持ち込んだ本を机の上に置いておくことが許される職場であれば、この一冊を並べておくと、日常業務でも有用になるであろう。