德薙零己の読書記録

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

安田武著「昭和青春読書私史」(岩波新書)

何を言っているかわからないと思うが、読めば読むほど本を読みたくなる本である。

本書は著者がどのように文学作品と出会い、書店で買い、そして読み続けたかを著した一冊である。そうした感想は多くの人が自己の体験として思い浮かべることができるだろう。だが、忘れてはならないのは、これが昭和10年代という時代だということだ。

戦争は既に始まっていた。新聞は毎日のように戦況を伝え、日常生活は軍事色に染まっていく。そんな最中に青春時代を過ごした著者の記録なのだ。
今の我々が思い描くのとは違うリアルな姿がそこにはある。

しかも、著者の手にする本は今でも買うことのできる本なのだ。当時は時局柄という理由で躊躇われ、購入困難とまでなっていた本が、今は容易に買うことができる。買って読むことができる。
本作で取り上げられた本を今後読むとき、著者の体験と私の体験であまりにも大きな違いとなるであろう。