德薙零己の読書記録

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

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バラク・クシュナー著「ラーメンの歴史学」(明石書店)

タイトルを観たとき、最初は気軽に読めるガイドブックをイメージした。
読み出すと、日本の食文化の歴史に関する深い考察、中国から受けた影響と受けなかった影響、そして、日本という国の食料事情の現実に叩きのめされる。

ラーメンとは実に奇妙な食べ物である。
日本に生まれ育った人の中で、ラーメンを食べたことがない人は探せばいるだろうが、ラーメンを知らない日本人はいない。
ラーメンを食べに行くために片道二時間以上を掛けて移動する人も珍しくない一方で、何か食べ物はないかと考えてコンビニに赴きインスタントラーメンを買う人もいる。

それでいて、ラーメンがいつから日本に存在しているかを訊ねると、トリビア的に詳しい人であれば水戸黄門まで遡ることもできようが、多くは戦後、かつて「支那そば」とか「中華そば」とか呼ばれていたことに考えを遡らせることのできる人でも、せいぜい明治維新が限度であろう。

本書を執筆したバラク・クシュナー氏は、イギリスのアジア研究者であり、日本の近現代史をワークフィールドとしている。著者は麺の伝来に軸を置いた東アジアと日本との関係として本書を著しており、範囲は食文化だけでなく、政治、経済、社会との関係を分析している。

本書を読んでラーメンという奇妙な食べ物を文化と国際関係の面から捉えなおすと、あまりにも身近にあるために当たり前に存在しているラーメンが、当たり前であることが奇妙に感じることとなるであろう。