德薙零己の読書記録

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

井上マサキ,西村まさゆき共著「たのしい路線図」(グラフィック社)

路線図を眺めて楽しむ。著者はそのように記しているが、それだけの一冊では無い。
いま自分はどこにいるのか、目的地まではどう行けばいいのかを突き詰めた作品である。

普通に考えれば、地形そのままに記した地図が正しい地図と感じる。
しかし、行動するにあたって地形の正しさは重要とはならない。それより必要なのは概念である。現在地と目的地との間を結ぶルートがわかることが第一義であり、地形の正確さは位置情報の把握において重要ではならない。

同様の概念で生み出された地図としては、古代ローマの旅行者が使用した地図がある。塩野七生著「ローマ人の物語第Ⅹ巻 すべての道はローマに通ず」(新潮社,2001)に著者所有の地図として紹介された古代ローマ時代の旅行者用地図は、地形の正確さより、旅程の便利さを優先させている地図である。

この地図のことを、Tabula Peutingeriana という。Tabula Peutingeriana とはローマ帝国の駅逓制度に基づいて、ローマ街道沿いの都市や宿場町とを結ぶ道、都市や宿場町の規模を表す図解の地図で、このラテン語に対する適切な日本語訳は無かった。この本を読むまでは。
この本を読んで、Tabula Peutingeriana の日本語訳は「路線図」が最適なのではないかと実感した。
Tabula Peutingeriana はローマ帝国時代の地図のうち、唯一写本が現存している地図である。だが、現代日本の路線図はローマ帝国の地図のように散逸することがないだろうと考える。
この本の存在は、著者のお二人が考えるよりもはるかに大きい。