德薙零己の読書記録

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

マシュー・サイド著「失敗の科学:失敗から学習する組織、学習できない組織」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

有名な喩話がある。

第二次大戦中のアメリカ軍の話。

航空戦でダメージを受け不時着した飛行機について統計をまとめ、司令官は一つの命令を出した。
「不時着した飛行機は皆同じ箇所にダメージを受けている。ダメージを受けた箇所を頑丈にせよ」

エンジニアは命令に従わなかった。それどころか、ダメージを受けたという記録の無い箇所を頑丈にするよう改良した。
その結果、出撃した飛行機が無事に戻ってくる確率が急増した。
なぜか?

ダメージを受けたという記録の無い場所とは、不時着すらできずに墜落するほどのダメージとなった箇所のこと。
不時着した飛行機についての統計に墜落した飛行機の記録は残らない。

 

本書のテーマは、失敗に対する人間の心理と行動、そしてそれが組織や社会に与える影響である。冒頭に挙げた飛行機の喩話は、著者は、医療、航空、法律、スポーツなど様々な分野の事例を紹介しながら、失敗から学ぶことの重要性と方法を説いたときに掲げた話の一つである。

本書の特徴は、失敗に対する科学的な分析と実践的な提言をバランスよく行っている点にある。失敗を避けたり隠したりする人間の本能やバイアスを明らかにし、それがどのように問題を悪化させるかを示し、また、失敗を受け入れて改善するために必要なマインドセットやスキルを紹介し、それらを実現するための組織文化や制度の改革を提案しているのが本書である。

本書を読むべき人は、失敗に対する恐怖や否定から解放されたい人や、失敗から学び成長したい人、失敗から学習する組織や社会を作りたい人である。失敗は人間の進化に欠かせない要素であり、それを正しく捉えて活用することで、個人も組織も社会もより良くなることができるという本書からの訴えが届くはずである。