德薙零己の読書記録

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田辺旬著「戦死者たちの源平合戦:生への執着、死者への祈り」(吉川弘文館)

治承3(1179)年11月17日。治承三年の政変。平家が日本国の天下を獲得。

元暦2(1185)年3月24日。壇ノ浦の戦い。平家滅亡。

この間、わずか5年半である。令和が始まってから本記事公開までの時間とほぼ同じだけの期間で、権勢を誇った平家は滅び、流人であった源頼朝は天下を取った。この源平合戦はあまりにもドラマティックで、あまりにも数多くの血が流れ、あまりにも多くの血が流され、あまりにも多くの悲鳴が、叫びが、絶叫がこだました5年半であった。詳しくは「平安時代叢書 第十七集 平家物語の時代 ~驕ル平家ハ久シカラズ~」を読んでいただきたいが、源平合戦は日本史上初の長期的かつ全国的な戦乱であった。

日本の歴史を振り返ると、源平合戦以前にも戦乱そのものは過去に存在していたし、戦乱の危機も日本史上何度も意識させられてきたこともあった。しかし、戦乱が日常生活に入り込み、戦乱に生き、戦乱に身を投じる人が通常の光景になったのは源平合戦が最初である。

源平合戦は数多くの人が、一瞬にして生涯を終えることを余儀なくされた。殺害された人の首は持ち運ばれ死の証とされた一方、首を切り落として持ち帰った人は英雄として持てはやされるようになった。戦死は名誉ではなく、まずは戦勝、次いで負傷が名誉であり、全ては敵に勝つこと、敵を倒すことに注力されるようになったため、死は人生の終焉ではなく戦勝者の勲章になった。

本書にはあまりにも数多くの人の死が、それも戦場での死が描かれている。首を切り落とされて勲章とされた人も、勲章扱いもされずうち捨てられた人も描かれている。戦乱は命をあまりにも軽々しく扱う日々を迎え、現在の感覚ではありえない日常が繰り広げられる。

源平合戦はそうした異常な日々のスタートであり、そして、あまりにもドラマティックであるために数多くの作品の舞台として描かれることとなった時代である。