德薙零己の読書記録

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山本太郎著「感染症と文明:共生への道」(岩波新書)

感染症と文明――共生への道 (岩波新書)

 

本書の著者は長崎大学大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科の山本太郎教授である。政治家のほうは同姓同名の赤の他人である。

本書を読んだのはCOVID-19の初年度である令和2(2020)年の5月である。

それまでも知識としては知っていた。天然痘、麻疹、ペスト、マラリア、こうした伝染病が人類史に何度となく登場し、多くの人の命を奪ってきたことを知っていた。
ただ、とても大切なことを自分は忘れていた。
病が命を奪うことの現実を忘れていた。

目に見えない病原菌や、それよりもさらに小さなウィルスがどれだけの人の命を奪ってきたか。何十人、何百人、何千人、何万人という数字を挙げても、その数字は統計ではない。
全ての人に家族がいて、恋人がいて、友人がいて、知人がいて、同僚がいて……
全ての人に、死に悲しむ人がいて……

死に悲しむ人が、ときには次の患者になり、ときには患者になりたくないという思いが死への悲しみでは無く病の排除へと動き出して差別を生み出す。
それが人類の歴史の現実。

長崎大学大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科の山本太郎教授によって本書が上梓されたのは東日本大震災の年。それから9年を経たとき、人類はCOVID-19の前に同じことを繰り返してしまった。

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