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古賀太著「美術展の不都合な真実」(新潮新書)

美術展の不都合な真実(新潮新書)

テレビで美術館での美術展を取り上げる場合、その多くはレポーターが一人で、あるいはレポーターと学芸員の二人で、静かな美術館の中を散策して一つ一つの展示物をじっくりと眺めるする情景になっている。

しかし、現実の美術展はそうはいかない。

まず、混んでいる。じっくり眺めるなどできない。

それでも館内に入れるならまだマシで、館内に入るまでの大行列が待っている。

じっくり眺めるのを諦めて、せめて美術展の展示物を全て目にしようとすると、一つの展示物あたり数十秒、下手すると数秒という結果が待っている。

なお、この混雑は美術展の会場を出ても終わらない。せめて今回の美術展の図録を買おうと売店に足を運ぶと、売店売店でやはり混雑が待っている。

それでも美術展の魅力に諍(あらが)うことはできない。

本作は、そんな美術展の裏側を明らかにした一冊であり、美術展に興味のある方には必読の一冊と言える。何しろ著者自身が新聞社の事業部で美術展を企画した経験を持っており、その経験から美術展の裏事情を詳細に解説しているのだ。

本書では、フェルメールゴッホ、モネなどの名画が日本に来る理由、美術展の混雑ぶり、チケット代の利益構造、国立美術館・博物館の立場など、美術展の裏側にある事情を明らかにしている。これらの情報は一般的な美術展の観客が知り得ない情報であり、美術展に対する新たな視点を提供してくれている。

裏側を知ると言っても内容は美術展への関心を低下させるものではなく、むしろ観るべき展示を見極める目を養うためのガイドともなっており、読む前よりさらに美術展への興味を高める一冊となっている。