德薙零己の読書記録

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

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ドネラ・H・メドウズ著,枝廣淳子訳「世界はシステムで動く:いま起きていることの本質をつかむ考え方」(英治出版)

世界はシステムで動く ― いま起きていることの本質をつかむ考え方

 

システムエンジニアという職業は、コンピュータの専門家であるというのは間違いではないのだが、本質を突き詰めると仕事をするための仕組みを作るのが仕事であり、その仕組みの中にコンピュータを組み込んでいるためにコンピュータの専門家にならざるを得なくなる。コンピュータは副次的なものであり、主たる業務はシステムの構築である。

本書に記されている「システム思考」とは、物事を大局的に見つめ、真の解決策を導き出す思考のことであり、その思考様式をわかりやすく解説しているのが本書である。思考様式の構築方法は我々システムエンジニアの日常業務と類似しているが、本書で挙げられているシステム思考がシステムエンジニアと完全に合致しているわけではない。

システムを構築するときに考慮するのは、対象を形作っているパターンと構造が、一見すると複雑であるが、その複雑さは明瞭なルールに基づいており、そのルールを見いだしてルールを明示し、不具合があればルールを改定する。これはビジネスにおけるコンピュータの利用に関係なく、環境学や公共政策からビジネスや経済学まで、幅広い分野に応用できることである。

本書は、現代社会の複雑な問題を理解し、解決するための新たな視点を提供している一冊である。本書はシステム思考の基本的な原則を明確に説明し、それがどのようにして私たちの日常生活や社会全体に影響を与えるかを明示していると同時に、個人の思考や行動を再評価し、個的な視点でより効果的な解決策を見つけるためのツールを提供している。

我々の社会を形作っている複雑なシステムを理解することに興味がある人にとって、本書は貴重な洞察を与えてくれるであろう。それはシステムエンジニアに限ったことではなく、学生であれ、専門家であれ、あるいは単に好奇心旺盛な読者であれ、本書は読者の視点を変えることとなるであろう。