德薙零己の読書記録

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タミー・ジョンズ&リンダ・グラットン著「バーチャル・ワーク:第三の波」(ダイヤモンド社)

バーチャル・ワーク第三の波 DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文

この論文の邦訳は2015年である。

年表を前提に置いた上でこの論文を読むと、COVID-19によって世界的に当たり前となったリモートワークはかなり早い段階で想定されており、部分的に適用されていたために、2020年に世界的に広まったことが読み取れる。無論、本論を書いた両著者はCOVID-19という大災害を事前に想定していたわけはない。本論記載時点では未来図であり、今後の予測である。

しかし、充実したコンピュータ接続を通じて、好きな場所で好きな時間に働くバーチャル・ワーカーは、世界で13億人に達するという専門家の見方も出て来ていると述べた上で、1980年代以降の大きな3つの波によって進化してきたと指摘しており、新たな働き方を示唆している。すなわち、フリーランス共同体、社員のリモートワーク、そして仮想的なプラットフォームで仕事場を共有するコワーカーである。COVID-19でのリモートワークはその二番目である。

両者は本論において、働く側の意識と雇用主の果たすべき義務がどのように変わるのか、バーチャル化によって失われるものは何か、そして、顔を合わせ刺激を与え合いコラボレーションするというリアルのメリットと、働き方を自由にするバーチャルのメリットの双方を取り入れる新たな試みについて考察している。

繰り返すが、本論が上梓されたときはまだCOVID-19など存在しない。しかし、これからの働き方という概念は研究されており、技術的にも、社会的にも、既に成立していた。だからこそ、2020年以降の人類はCOVID-19の下でも働くことができた。もし、この研究が無かったならば、経済はさらに停滞し、対人口死亡者数は1919年のスペイン風邪に匹敵し、志望者総数は凌駕してしまっていたであろう。