德薙零己の読書記録

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ウォルター・アイザックソン著,井口耕二訳「イーロン・マスク 上・下」(文藝春秋)

イーロン・マスク氏については今まさに現在進行形で世界中にニュースとなっている人物である。本書はそのイーロン・マスク氏の半生を描いた伝記なのであるが、本書を読んだところで現時点でニュースを賑わせているイーロン・マスク氏についていけるわけではない。

どういうことか?

本書は今年の夏までのイーロン・マスク氏の反省を扱った著作なのである。そして本日のこの記事は11月23日に公開する記事である。すなわち、3ヶ月もあればイーロン・マスク氏は世界を三回から五回は賑わせ、世界を大きく変革させるのだ。本書を読んでも「ああ、今年の夏はこうだったなぁ」という回顧にはなっても、現在のビジネスの、あるいは現在のITのトップランナーとなることはできない。本書を読み終えた段階で誕生するのは、3ヶ月遅れのビジネスパーソン、3ヶ月遅れのITエンジニアとなった読者である。

かといって、本書は無価値なわけではない。それどころか極めて有用な著作だ。イーロン・マスク氏に対する評判は毀誉褒貶多々あるが、イーロン・マスク氏抜きに現代社会を語ることはできない。だが、イーロン・マスク氏について完全に知っている、イーロン・マスク氏の展開したビジネスを全て理解しているなどと言い切れる人間が世界中を探してもどこまでいるのかわからない。現代のビジネスに於いて無視することのできないイーロン・マスク氏がどのような人生を歩み、どのような視点でビジネスを展開し、どのような思考でエンジニアリングを現実化させているかを知るのに、本書は最高の著作である。

なお、私は本書について、一つだけ予言しておく。本書はイーロン・マスク氏についての書籍であり上下巻に分かれているが、上巻は第一巻、下巻は第二巻と改題され、第三巻以降がそう遠くない未来に刊行されるであろう。イーロン・マスク氏は、半年もあれば世界を10回は賑わせる人間である。現時点では上巻495ページ、下巻479ページであるが、1年もあれば500ページ分の伝説を作り上げるはずだ。それこそ、一年に一冊の割合で、イーロン・マスク氏の人生を追いかけることも不可能ではないほどだ。

数年後、本作の続編が第三巻として刊行されるであろう。