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元木泰雄編「保元・平治の乱と平氏の栄華(中世の人物 京・鎌倉の時代編 第一巻)」(清文堂出版)

平安時代叢書がそれまでの藤原摂関家の描写から院政期の描写に移る、「平安時代叢書 第十五集 鳥羽院の時代」と「平安時代叢書 第十六集 平家起つ ~平家ニ非ズンバ人ニ非ズ~」を執筆中に大いに参照した論文集である。

以下に本書に取り上げられた論文を記す。

  1. 鳥羽院政と保元の乱
    1. 鳥羽院崇徳院崇徳院政の夢~…佐藤健
    2. 藤原忠実~辛酸を嘗めて中世を切り開いた摂関家家長~…佐古愛己
    3. 藤原頼長~苦闘する大学者~…横内裕人
    4. 平忠盛~都鄙で広がる京武者の舞台~…守田逸人
    5. 源為義保元の乱における実像~…須藤聡
    6. 覚仁と信実~悪僧論~…久野修義
    7. 阿多忠景と源為朝~その伝説と実像~…栗林文夫
    8. [コラム]王家の乳母…野々村ゆかり
  2. 平治の乱後白河院政の成立
    1. 後白河院~暗主の波乱万丈の生涯~…高橋典幸
    2. 藤原忠通と基実~院政摂関家のアンカー~…樋口健太郎
    3. 信西~中世を拓いた稀有の天才~…木村真美子
    4. 藤原信頼・成親~平治の乱と鹿ケ谷事件~…元木泰雄
    5. 藤原経宗~拷問を受けた有識の公卿~…元木泰雄
    6. 源義朝~最初の武士の棟梁~…近藤好和
    7. [コラム]院と芸能者たち…辻浩和
  3. 平氏の栄華
    1. 平清盛~「おごれる」権力者の実像~…川合康
    2. 池禅尼二位尼~平家の後家たち~…栗山圭子
    3. 平時忠と信範~「日記の家」と武門平氏~…松薗斉
    4. 藤原邦綱とその娘たち~平清盛の盟友/近衛家の忠臣~…佐伯智広
    5. 平重盛~一門栄耀の反照~…平藤幸
    6. 西行~秀郷流故実の継承者~…近藤好和
    7. [コラム]京武者たち…元木泰雄

詳しくは平安時代叢書を読んでいただきたいが、保元の乱平治の乱を経て平家政権が成立したことで、この国の政治と経済は新たな方面へと進むこととなった。具体的には、貧困からの脱却を前提とした経済発展と、その引き替えとしての格差拡大がこの時代を席巻した。

歴史にIFは厳禁と言うが、このまま平家政権が存続し続けたならば、モンゴルの侵攻が始まるまでの日本は東アジア経済圏と呼ぶべきより大きな経済圏の一部を担うようになり、格差拡大を代償とする経済発展は経験したであろう。ただ、国民生活の自由さという点では合格点を付けることはできないし、その後の源平合戦の勃発も歴史の必然となっていたと思われる。ただし、勝者が史実通りに源氏であるとは言い切れない。

本書に掲載された数多くの論文には、源平合戦前の面々の足跡が色濃く描かれている。その一つ一つが、かの時代を生き抜いた人達の思いを強く体現している。