德薙零己の読書記録

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ジェイコブ・ソール著,村井章子訳「帳簿の世界史」(文春文庫)

帳簿の世界史 (文春文庫)

 

 

人間が複数いれば必ず社会が生まれ、社会が正常に機能するためには経済を機能させなければならない。経済を無視して社会を動かそうとすると必ず社会のほうが破綻する。極論すればいかなる理想的な社会を妄想しても、経済が伴わなければ理想的な社会は成立しない。

帳簿とは、経済の記録である。本書は帳簿の視点から世界市場の事件を追い求める著作である。

本書ではメディチ家の繁栄からブルボン朝やハプスブルグ家の凋落、南海泡沫事件、1929年の大恐慌などを会計の側面で捉えた一冊であり、近世以後の西洋経済史を学ぶのに有用な一冊である。その上で、帳簿というものが単なる数字の記録ではなく、歴史を形成し、社会を動かす能力を有していることを示している。

大学で経済や経営を学んだ者にとっては、これまで自らが学んできたことが世界の歴史において極めて大きな力を有していることをこの本で知るであろう。歴史を学んだ者にとっては歴史の地家にゃ出来事の裏には必ず経済があることを思い知るであろう。

本書は帳簿というユニークな視点から歴史を読み解く新たな試みであり、その視点は新鮮で興味深いものがある。経済と歴史の双方を本書で学ぶことで、人類はなぜこのような歴史を積み重ねて現在のような社会を構築するようになったかを知ることとなるであろう。