德薙零己の読書記録

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エンリコ・モレッティ著,池村千秋訳「年収は「住むところ」で決まる:雇用とイノベーションの都市経済学」(プレジデント社)

ミもフタもないタイトルの本であるが、その通りである。

給料が高く、周囲から羨望を集め、多くの若者が将来就きたいと考える職業は特定の地域に集中している。その地域に職業が集中することでその地域に人が集まり、その地域に住む人をターゲットとしたビジネスも増えていく。

本書はこの件を「イノベーション産業の乗数効果」として説明している。イノベーション系の仕事1件に対し、地元のサービス業の雇用が5件増えるというのが本書の主張だ。

さらに注意すべきは、住むところの優位性は学歴を凌駕するという点である。「イノベーション都市」の高卒者が「旧来型製造業都市」の大卒者よりも多く稼いでいるとし、このような新しい仕事がどこで生まれ、そして製造業を主とする社会にとっていかに不都合な時代に移っているかを書き記している。

本書の主たる調査対象であるアメリカではシアトルやオースティンといった都市で労働人口、投資、雇用がいずれも増加するという好循環が生まれている一方、製造業で隆盛を極めた都市は人口の流出と失業率の上昇という悪循環に悩まされている。

その上で、以下のような点を主張している。

  • イノベーション産業は製造業の3倍のサービス業の雇用を生む
  • 近隣住民の教育レベルが給料を決める
  • 本当に優秀な人材はそこそこ優秀な人材の100倍優れている
  • 「沈む都市」は死亡率・離婚率ともに「浮かぶ都市」より高い

この現実に打ち勝つにはどうすべきか。その答えは本書にある。