德薙零己の読書記録

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フリードリヒ・ハイエク著,西山千明訳「隷属への道」

念頭に置いていただきたいのは、イギリスでの本書刊行年が1944年、すなわち、第二次大戦の渦中であるという点である。

第二次大戦の連合国はナチズムやファシズムと戦った。ナチズムの侵略とファシズムの圧政に対する自らは、自由と民主主義のもとにあると信じていなかった。ファシズムもナチズムも社会主義の反意語であり、社会主義は民主主義の一形態であるとする意識すら存在していた。

そんな時代に、ナチズムもファシズムも、そして社会主義共産主義も等しく害悪であり、中央計画経済そのものが必然的な結果としてもたらされる国民生活全体を隷属させるものであると警告、同時に、個人主義古典的自由主義の放棄も同じく隷属を招くと主張したのである。

ハイエクは本書で、社会主義体制を選ぶことで国民の多くの自由が奪われ、社会主義は独裁的なファシズムに移行すると説いた上で、計画経済の問題点は選択の自由がない点であると述べている。物資の選択購入ではなく配給は国民の不満を募らせるだけでなく、結果的に独裁者による圧政が生まれるとしたのである。

繰り返して記すが、本書は1944年のイギリスで刊行された書籍である。それでいて、ハイエク社会主義の現実を世に広めたのだ。当然ながら社会主義者からの猛反発を受けたが、結果はハイエクの勝利だった。ハイエクは正しいことを書き記し、書籍として世に送り出したのである。

本書は今もなお多くの示唆を生む。それは日本国内だけでなく世界的に見られる傾向に対する示唆である。天下国家を語り、国民経済を語るならば、過ちを繰り返さないために本書を読んでおく必要はある。歴史は必ずしも繰り返すとは限らない。歴史を知らない者が誤った歴史を繰り返すだけである。