德薙零己の読書記録

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ビジャイ・ゴビンダラジャン&クリス・トリンブル著,酒井泰介訳「ストラテジック・イノベーション:戦略的イノベーターに捧げる10の提言」(翔泳社)

本書は、既存の事業のDNAを活かしながら、新たなビジネスモデルを探し、爆発的な成長へと導く10のルールを提供している一冊である。

以下がその10のルールである。

  1. すべての偉大なイノベーションの物語において、優れたアイデアは序章にすぎない。急成長のためには、忘却、借用、学習をする必要がある。そのためには、有能で野心的なリーダーがいればいいわけではない。組織的DNAを利用しなければならないのである。
  2. 組織全体の記憶の源は根強い。組織は、新たな環境に足を踏み入れたときでさえ、コアコの常識にとらわれがちだ。しかし、ニューコはまったく新たな方法で事業展開されなければならない。
  3. 大企業の戦略的実験事業は、その資産と能力を活かすことで、ベンチャー企業に勝てる。コアコの資産と能力を最大限に活用することが、ベンチャー企業に差をつけるポイントとなる。
  4. 戦略的実験事業には、重要変動要因がある。どれだけ調査しても、やってみるまでこれらに対する回答は得られない。そのため、成功できるか否かは、当初の戦略よりも実験と学習の能力にかかっている。
  5. ニューコの組織は、人事、組織構造、システム、組織文化などの点で、ゼロから新規につくりあげなければならない。これが、組織の強い記憶を打ち破る唯一の方法である。ニューコとコアコとの違いを語り合うだけでは、不十分である。
  6. 緊張をとりなすのも、幹部の仕事である。ニューコとコアコとのつながりは、ともすると乱れやすい。緊張の原因はさまざまだが、需給バランスの変化からくる経営資源の取り合いはよくあることである。
  7. ニューコの経営計画立案は、独立して行わなければならない。コアコのパフォーマンス評価指標は、ニューコの学習を妨げる。
  8. 利害、影響力、社内政治、経営資源の取り合いや社内競争は学習を妨げる。学習を確実にするには、予測と結果とのズレを分析する、客観的かつ分析的なアプローチが必要である。
  9. ニューコの責任は数字必達ではなく、学習である。厳密に学習することによって責任は果たせる。経営計画に対する達成責任を問うのは、単純ではあるが、非生産的である。
  10. 企業は戦略的実験事業を通じて画期的な成長力を蓄えることができる。その基礎は忘却、借用、学習の技術である。マネジャーは、いち早くこうした技術を蓄積しなければならない。

さて、上記に掲げたのは本書のまとめとなっている10のルールである。

本書を読んだ者であれば、この10のルールを理解いただけるであろう。しかし、本書未読の状態で上記の10のルールを学ぶのは難しいはずである。そもそも「コアコ」とは何か? 「ニューコ」とは何か? 本書未読の状態で知りうる人は少なかろう。

本書の中心となる課題は、「しっかりとできあがった組織で画期的なアイデアによって画期的な成長を実現するにはどうすればよいか」であり、上記の10のルールはその回答である。事業が成熟するにつれて、成長がますます難しくなります。どんなビジネスモデルでも、成長の余力はやがて失われる。したがって、新しいビジネスモデルを探る「戦略的イノベーション」が最も魅力的な選択肢となる。本書では、偉大な戦略と偉大な実施とではどちらが大切かについて議論し、イノベーションについては、実施の方が重要であると主張している。どんなによく練られた事業計画も、かなりの推測が織り交ぜられている以上、問題はアイデアではなく、それをどう実施するかにある。その視点を踏まえた結果が上記の10のルールである。