多くの人が気づくであろうが、本書のタイトルはハイエクの「隷属への道」の本歌取りである。
ただし、ハイエクが統制経済のもたらす国民生活水準の悪化の警鐘として隷属への道を記したのに対し、本書は人間がAIとロボットとの競争に負けつつある現代社会に対する新しい視点を提供しつつ、ベーシックインカムの実施と、週の労働時間を15時間にすること、そして国境線を開放することを提案している点で、ハイエクよりもむしろケインズに近いと言える。
本書の著者であるブレグマン氏はオランダの歴史家であり、また、ジャーナリストである人だが、もう一点、着目すべきところがある。広告収入に一切頼らない先鋭的なジャーナリストプラットフォーム「デ・コレスポンデント」の創立メンバーであるという点だ。ゆえに、スポンサーに縛られることなく自らの意見をダイレクトに公表することができる。
その上で、著者はテクノロジーの恩恵を受けつつ、失業や格差を避けるための金銭や時間の再分配、つまり、ベーシックインカムの実施と労働時間短縮が必要だと主張している。これらの提案は、機械への「隷属なき道」を示すものであり、新しい時代への処方箋とも言える。