「選ばなければ働く場所なんていくらでもある」
何とも残酷な言葉である。就職氷河期は理解できるであろう、どれだけ受けても面接で落とされ、履歴書が返送される日々。返送されればまだマシで採用しないことを告げる知らせすら送られてこない日々。どこでもいいから就職したいと願いながらもどこにも就職できぬ日々。そして、就職できないまま卒業を迎えてしまった日。
これは何も高望みなどした結果ではない。どこにも就職先など無いのだ。卒業年度の景気が悪いというただそれだけの理由でどこにも就職できず、少し前の年代であれば文句なく就職できるだけの学歴と能力を身につけているのに、さらには少し前の年代で実際に就職できている人物より自分は優秀なのに、どこにも就職できずにいる。
これは平成になってから始まった現象ではない。戦前にも存在した。
町田祐一氏は本書において、近代日本の就職難という社会問題を深く掘り下げている。教育の視点と産業の視点からこの社会問題を構造的に捉え、高学歴者が「高等遊民」として生きることを余儀なくされた背景を明らかにしている。
本書に於いて特筆すべきは、縁故採用の成り立ちや、政府と高学歴者の間の思想的な対立が就職難問題をより複雑なものにしているという指摘である。これらは現代の就職市場でも見られる傾向であり、多くの人から強い共感を得るであろう。