德薙零己の読書記録

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秋元英一著「世界大恐慌:1929年に何がおこったか」(講談社学術文庫)

地獄の入り口の出来事の描写である。

1929年の暗黒の木曜日似始まる恐慌は株価を七分の一にまで減らし、アメリカ国内だけでも銀行倒産件数は6000を数え、1000万人以上の失業者を生みだしてしまった。本書はこの地獄の入り口を、難解な専門用語や数式を用いることなく、当時の新聞記事や証言から、庶民の目に映った大恐慌期の米国を再現している。

また、大恐慌が日本に波及した「昭和恐慌」の実態と、当時の民政党政権の井上準之助蔵相、そのあとの政友会政権の高橋是清蔵相の経済政策についても触れています。本書の講談社学術文庫版の刊行は2009年10月と、まさに日本国が体験することとなる地獄の一年目であり、井上準之助民政党政権の無能さは、2009年からの悪夢の3年4ヶ月を思い起こさせる。せめてもの救いは、政権は同レベルに愚かであったが、日本国民はあの頃よりはるかに優秀であったという点である。3年4ヶ月後に愚人を退治し正常を取り戻すことに成功したものの、あの悪夢の3年4ヶ月は、太平洋戦争3年8ヶ月に匹敵する大打撃を日本国に与えた。

戦争は繰り返してはならないとは誰もが同意することであるが、これもまた、二度と繰り返してはならない過去である。