本書は、新たな科学の発想や発明が致命的な禍いをもたらすことがあるというテーマを探求している一冊である。
十分に検証されることなく、それこそ科学の名に値しないまま世に出てしまったものは無論、科学としては輝かしい着想や発明であったにもかかわらず、人々を不幸に陥れることがあるのだと述べているのが本書である。
以下に本書の目次を示す。
- 第1章 神の薬 アヘン
- 第2章 マーガリンの大誤算
- 第3章 化学肥料から始まった悲劇
- 第4章 人権を蹂躙した優生学
- 第5章 心を壊すロボトミー手術
- 第6章 『沈黙の春』の功罪
- 第7章 ノーベル賞受賞者の蹉跌
- 第8章 過去に学ぶ教訓
アヘンはなにも麻薬として生み出されたものではない。苦しむ人を救おうして生み出された薬が麻薬として使われてしまった例である。
毒ガスは戦場で使うために生み出されたものではない。飢饉を減らし食糧生産を増やすために積み重ねてきた研究が悪用されてしまった結果である。
農薬禁止を訴えたのはマラリアで命を落とす人を増やそうとしたからではない。農薬に危険性があると考えたからである。
本書の目次として掲げた内容からも想像できるとおり、本書は、人類が科学の名のもとに繰り広げてきた過ちを詳細に調査し、その結果がどのように社会に影響を与えたかを明らかにする本である。科学的な探求がどのようにして誤った結論や有害な結果を生み出す可能性があるかを示し、科学者がどのようにして誤った方向に進むことがあるか、またその結果がどのように社会全体に影響を及ぼすかを明示している。
日本に生まれ育った者であれば、HPVワクチン反対運動という取り返しの付かない失敗を知っているはずである。反対した人は何も子宮頸がん患者を増やそうとして反対したのではない。彼らの主張と行動がその時代は「科学」と扱われてしまっていたのである。そして今なお、その主張が科学ではないと認めずに反発している人達がいる。科学が時代とともに似非科学だと判明したとき、採るべき手段は似非科学を科学で上書きすることである。