德薙零己の読書記録

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メアリー・L・グレイ&シッダールタ・スリ著,柴田裕之訳「ゴースト・ワーク」(晶文社)

「ゴーストワーク」。それは、API(Application Programming Interface)とインターネットを利用し、調達からスケジュール管理、出荷、開発まで行う仕事を指。利用者にはAIが対応していると思われる業務について、実際にはAIが対応しきれないタスクを人間が処理する目に見えない労働であり、本書の著者である人類学者のメアリー・L・グレー博士やコンピューター科学者のシッダールタ・スリ博士らが提唱した概念である。

人間が処理するということは、それをする職業があるということもであり、実際に、ゴーストワーカーという職業が存在する。端的に言えばAI(人工知能)を機能させるために裏で働いている勤労者のことであり、ゴーストワーカーはAIにタグ付けやラベリング方法を教える、言わばAIの教師の役割を務めている。AIに学習させ、AIが人間の作業を自動化できるようにするためには、誰かが人間の判断基準をAIに教え込み、徹底的にアルゴリズムを訓練しなければならない。その役割を、ゴーストワーカーは担っている。

ゴーストワーカーの仕事内容としては、データラベリングやコンテンツモデレーションなどがある。データラベリングとは、画像や動画、音声、テキストなどを識別し、それらのデータにラベル付けを行い、モデルのコンテキストを指定して機械学習モデルに正確な予測をさせる作業のことであり、コンテンツモデレーションとは、SNSやECなどのWebサービスにおいて投稿されたコンテンツを監視し、不適切な内容の投稿の削除やユーザーのアカウントを停止する作業のことである。こうした作業を行うことでAIに人間の判断基準を教え込み、AIが自動で処理できるようにする筋道を作り上げている。

このゴーストワーク、職業として捉えるときわめて大きな問題が存在している。労働法や雇用契約に守られていないことが多いのだ。特に、仕事を依頼する側とされる側とが国境を越える場合、労働法も雇用契約も現地の法律が適用される。その結果、大量の単純労働かつ低賃金労働が生み出されているだけでなく、労働者が無理を強いられるケースも多発しているのだ。本書で取り上げられているケースは北米の企業が南アジアの勤労者にゴーストワークを依頼するというケースであり、労働法も雇用契約も南アジアの国における法や契約基準が適用される。その水準はお世辞にも高いとは言えず、結果として劣悪なものとなる。

ゴーストワークについて記した本書は、AIが人の仕事を作る世界、そして超高速で拡大する「ギグワーク」の最暗部をえぐる渾身のルポルタージュである。