德薙零己の読書記録

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アンソニー・B・アトキンソン著,山形浩生&森本正史訳「21世紀の不平等」(東洋経済新報社)

21世紀の資本」や「資本とイデオロギー」のトマ・ピケティ氏の師匠にあたる人物が、アンソニー・B・アトキンソン氏である。本書はアトキンソン氏の長年の不平等研究の集大成とも言える一冊であり、不平等に関する研究から現代社会の根本を問い直し、思想の大転換を迫る書となっている。

アトキンソン氏は、格差をあきらめない15の方法を本書にて提案している。以下がその15の方法である。

  1. 技術変化の方向を政策立案者たちは明示的に検討事項とすべきである。イノベーションは労働者の雇用性を増大するような方向へと奨励し、サービス提供における人間的な側面を強調すべきである。
  2. 公的政策は、ステークホルダー間の適切な権力バランスを目指すべきであり、そのためには
    (a)競争政策に明示的に分配的な側面を導入すべきであり、
    (b)労働組合が労働者を平等な立場で代表できるような法的枠組みを確保すべきであり、
    (c)社会パートナーや各種非政府団体を含む社会経済評議会が存在しない場合には、それを設立すべきである。
  3. 政府は失業を防止・削減する明示的な目標を採用し、求める者に対して最低賃金での公的雇用保証を提供することで、この目標を具体化すべきである。
  4. 国民報酬政策を作るべきである。これは二つの要素で構成される。生活賃金で設定された法定最低賃金と、社会経済評議会を含む「国民的対話」の一部として合意された、最低賃金以上の報酬慣行規範である。
  5. 政府は国民貯蓄国債を通じ、貯蓄に対するプラスの実質利率を保証すべきである。1人当たりの保有高には上限を設ける。
  6. 成人時点で全員に資本給付(最低限相続)を支払うべきである。
  7. 公的な投資当局を作り、ソヴリン・ウェルス・ファンドを運用して企業や不動産への投資を保有し、国保有の純資産価値を増やすべきである。
  8. 個人所得税の累進性を高める方向に戻す。限界税率は課税所得の範囲に応じて上がり、最高税率は65パーセントにして同時に税収基盤を広げるべきである。
  9. 政府は個人所得税に勤労所得割引を導入すべきである。これは一番低い所得区分に限るものとする。
  10. 相続や生前贈与は累進生涯資本受給税のもとで課税すべきである。
  11. 最新の不動産鑑定評価に基づいた定率または累進的な固定資産税を設ける。
  12. 全児童に対し相当額の児童手当を支払い、それを課税所得として扱うべきである。
  13. 全国レベルで参加型所得(PI)を導入し、既存の社会保護を補うようにして、いずれ全EUでの児童ベーシック・インカムを視野に入れるべきである。
  14. 前段の代案として、社会保険制度を刷新し、給付の水準を引き上げ、支払範囲を拡大すべきである。
  15. 富裕国は公的開発援助(ODA)の目標額を、国民総所得の1パーセントに引き上げるべきである。

アトキンソン氏が上記の提案をどのような経緯で挙げるに至ったか、以上の提案により現代社会における不平等問題への具体的な解決策としてどのような成果を見せるか、多くの人が注目して高い評価を得ている。

もしトマ・ピケティの著作を読んだのであれば、本書も一読することをお勧めする。本書は不平等問題について深く理解するための重要な資料である。