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ヴェルナー・ゾンバルト著,金森誠也訳「ブルジョワ:近代経済人の精神史」(講談社学術文庫)

ヴェルナー・ゾンバルトマックス・ヴェーバーが自身の後継者として指名したことでも有名な経済学者であり、「近代資本主義」でゲルマン人企業家の中に「ファウスト」的精神を見出し、「ユダヤ人と経済生活」でユダヤ人をメフィストフェレスに擬えるなど、資本主義に関する特殊研究を数多く発表してきた人物である。

原著刊行年が1913年、すなわち第一次世界大戦勃発前年である本書は、ゾンバルトが「経済生活における精神とは何か」を問うことで資本主義の精神の発生を捉えようと試みており、中世ヨーロッパから20世紀初頭のアメリカ合衆国まで縦覧することで、かつての海賊から現代ブルジョワまでの流れを巡り、企業精神の起源を探っている。

経済生活における「精神」が何であるかを問い、資本主義の精神の発生を捉えようと試みたゾンバルトは、本書に於いて資本主義がどのようにして成立し、それがどのようにして私たちの社会と文化に影響を与えてきたかを明らかにしようとしている。

同時に、社会科学の書籍にありがちなことであるが、刊行年当時の社会情勢を伝える歴史資料ともなっている。経済学、社会学を学ぶ場合はゾンバルトの主張を、歴史学を学ぶ場合は本書刊行時の社会を考慮することで、第一次大戦勃発直前の経済学を深く学ぶことができる。特に、経済行動が単なる数値やデータだけでなく、文化や価値観に深く根ざしていることを示していることは特筆すべきことである。