德薙零己の読書記録

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重見泰著「大極殿の誕生:古代天皇の象徴に迫る」(吉川弘文館)

大極殿とはそもそも何か? 辞書っぽい説明をすると「古代の日本における朝廷の正殿で、天皇の即位や外国使節との謁見など国家の重要な儀式が行われた場所」となる。

資料を遡ると、乙巳の変、いわゆる大化の改新の場面で大極殿の語が登場するが、それは日本書紀編纂時の用語を大化の改新の場面の描写に用いただけで、実際に大極殿の語が使われるようになったのは天武朝になってからであり、大極殿が重要視されていたのも天武朝、すなわち、奈良時代までである。

平安京にも大極殿はあるが、平安時代大極殿奈良時代までのような大極殿の位置づけではなかった。
どういうことか?
大極殿天皇の絶大な権力を周囲に示すための建物であるが、平安時代天皇の権力を周囲に示す必要が無くなった、いや、理念としての大極殿を必要としなくなったのが平安時代だ。

天武朝は徹頭徹尾律令制に基づく統治であった。律令制であろうとしつづけていた。藤原京の時代も、平城京の時代も、律令が存在して現実を律令に合わせようとしていた。それを平安時代は覆した。現実のほうに律令を合わせ続けたのが平安時代だ。

平安時代天皇の権威は必要であったし、天皇の権威を日々の政務で見せつける必要も存在していたが、奈良時代までのように大極殿に君臨する絶対的君主のではなく、内裏において象徴的存在として君臨する天皇というのが平安時代において求められる天皇の在り方であった。

平安時代における天皇の在り方については、拙作「平安時代叢書」を参照いただくとして、それより前の天皇の在り方と大極殿との関係について本書はとても有用になるであろう。

平安時代叢書は小説投稿サイト「小説家になろう」にて公開中。

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