戦前戦中の男子小学生に「将来何になりたいか」と質問したら「軍人」と答えていたという話があるけど、それはそう言わなければならない雰囲気になってからの話で、それ以前はどうだったかというと、親が子を叱るときに「今に軍人にしてやるぞ」という脅し文句が通用していた。
軍人の社会的地位も低くて、人力車に乗せてくれと頼んだら「歩いたらいいでしょう」と言われ、娘の見合い相手が軍人だとわかると見合い話が白紙になった。
こういう社会風潮なので、徴兵忌避者が続出していた。軍人になりたいという人は少なく、強引な徴兵を繰り広げるもあの手この手で徴兵を逃れる者は多かったのがこの国の戦前のリアルだ。
戦前に対する視線はどうしても軍国主義を前提としたものとなっていることがあるが、それは一面的なものとするしかない。軍人の地位も低く、軍隊に対する忌避感も強く、そして何より、戦争に対する嫌悪感も存在していた。
そのままの感情が続いているなら、もしかしたら実際の悲劇とは異なる未来を迎えていたのかもしれない。
それが、本書の記す戦前日本のリアルである。