德薙零己の読書記録

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

リンダ・グラットン著「リデザイン・ワーク:新しい働き方」(東洋経済新報社)

COVID-19を期に働き方は大きく変わったが、それより前から燻っていた問題が露顕化していたともいえる。出勤し、職場に勤務開始時刻から勤務終了時刻まで滞在し、上司や部下や同僚と常に顔を合わせる。それが当たり前であった。

勤務中は集中できるとは言い切れなかった。勤務中に話しかけられることもあるし、呼び出されることもあるし、電話などが時間を寸断されることもある。管理職になると、自分のための時間は減る。激減する。管理のためという名目で様々な役割が増やされる。それが当たり前であった。

職場は家庭と分かれていた。職場に向かうために家を出てから、職場に到着し、職場での勤務終了時刻まではオフィシャルな時間である。職場での勤務を終えて職場を出た瞬間からはプライベートの時間である。たまにプライベートな時間が削られることもある。飲み会がその例。

それで良いと考えている人も、それでは全然駄目だと考えている人もいた。ただ、COVID-19の前は出勤するのが当たり前、職場と家庭が別なのが当たり前で、当たり前を否定するのはごく一部だった。

それをCOVID-19は壊した。リモートワークが珍しくなくなり、家庭と職場が一つになった。通勤時間がゼロになり、空いた時間を睡眠と学習に充てることが可能となった。職場にいるためにできなった就業時間中の育児や介護や家事も可能になった。

一方で、家庭は必ずしも就業に向いている空間ではなかった。ネット回線が充足されているとは限らず、前述した育児や介護や家事が就業の負担になることも珍しくない。家にいるからこれぐらいできるだろうという意識でさらなる負担を求められることも珍しくない。

特に問題となったのが都心部でのルームシェアである。これまでは職場に近い都市の中枢部に住まいを構え、複数人で負担を分け合うことでアーバンライフを体感していた人は、メリットが喪失した。ネット回線が競合してしまい、就業の品質が下がった。

そこに追い打ちを掛けたのがCOVID-19のもたらした失業の増加である。ルームシェアのメンバーの中に、一人、また一人と失業した人が出てきて、部屋の中の空気が悪化し、部屋を出て行く者も現れた。家賃を分け合うことで住むことができる部屋であるために、就業中の者も部屋を出ることとなった。

COVID-19など起こらなければ良かった。しかし、起こってしまった。起こってしまったためにそれまでは露顕化していなかった就業形態の問題が露顕した。もう元に戻ることはない。一社単位で元に戻そうとしても、リモートでの就業を望む人はリモートのできる職場に移ってしまう。

もう、元には戻れない。
COVID-19を地球上から殲滅させても、働き方の見直しの流れは止まらない。
残された選択肢は、見直しの流れに従うことである。