德薙零己の読書記録

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

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マルク・レヴィンソン「例外時代~高度成長はいかに特殊であったのか~」(みすず書房)

スウェーデンの映画監督であるイングマール・ベルイマンは脱税容疑を掛けられたことがある。
ベルイマン監督は脱税などしていないと主張したが、税務当局は税金未納の証拠を公表した。
その結果、ベルイマン監督はたしかに所得税を払っていないことが明らかになった。

 

所得の140%という所得税を。

 

140%の所得税というのは、年収1億円の者に1億4000万円の所得税を払えと言っているようなものだった。それも、1年限りのことではない。毎年払えと言っているのと同じであった。
これには多くのスウェーデン国民が驚愕した。

 

しかも、ベルイマン監督はかねてから、「高所得者には高い税金を課すべき」と訴える政党の熱心な支持者であり、その政党が与党となって推し進めた政策の熱心な支持者でもあった。
その主張が実現した結果がこれだった。

 

ベルイマン監督の陥った罠は対岸の火事の出来事ではないのかもしれない。我が国も、三年八ヶ月の太平洋戦争や、三年四ヶ月の民主党政権と言った、生活を破壊し、多くの人を死に至らしめた惨劇があった。この惨劇は二度と繰り返してはならない。しかし、少しの誤りで、それも悪意ではなく善意から来る誤りで、取り返しの付かない災害を招いてしまうことがある。それでも、早期に誤りを認めれば災害が悪化する前に自体を元通りにすることができる。ベルイマン監督のように。

 

第二次大戦後の時代の経済発展は人類史における奇跡というより偶然であり、例外的な時代であったとするのが本書である。平安時代叢書と題して平安時代を全部書くという歴史小説を書いている立場から言うと必ずしもそうとは言い切れないが、人類の歴史の中では珍しい時代のうちの一つであるとするしかない。その上で、その珍しい時代をいかにして長く続けるか、多くの人に以前よりも良い暮らしであることを実感でき続けるようにするかが求められるようになっている。

残念ながら、日本国は30年に亘って失敗している。