德薙零己の読書記録

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竹下隆一郎著「SDGsがひらくビジネス新時代」(ちくま新書)

本書を読んだのは一年半前。当時の書評を当時のTwitterより転記する。

 

この一冊を読み終えた現在、真っ先に思い浮かんだのが森鴎外山椒大夫。説話の山椒大夫と違って山椒大夫が処刑されることなく、適切な賃金を払うことを命じられたことでそれまでより富み栄えるようになったというストーリーのほうである。

京都という都市は海から遠い。そのため、塩を手に入れるのが難しく、院政開始時点の京都の交通事情ではどうしても塩が高価な物となった。しかし、丹後国山椒大夫は塩を大量生産することで平安京における塩の値段を下げさせることに成功した。大量生産の方法が事実上の奴隷労働であったのだが……

奴隷労働をさせられていた安寿と厨子王姉弟のうち、弟の厨子王が脱走に成功した後、武士として丹後国の領主となることに成功し、山椒大夫の奴隷労働を取り締まる。ここまでが説話における山椒大夫であるが、森鴎外はこのあと、山椒大夫への復讐をさせずに適切な経営をさせるよう命じた。

あくまでも物語の中であるが、今から1000年前の平安京の庶民の立場に立つと、塩を安く提供してくれる山椒大夫は立派な経営者に見えた。しかし、山椒大夫がどのように塩を安く大量生産しているのかを知ったとき、立派な経営者という概念は喪失し、厨子王への称賛を呼んだ。

SDGsという17個にまとめられた概念は新しい。しかし、17個の全てが、誰もが正しいと考え、実現するのが望ましいと考える概念だ。
企業がSDGsに沿った経営をしていないとき、山椒大夫が手にした称賛を失ったように厨子王への称賛が生まれる。と同時に、経営者としての山椒大夫も喪失する。

ところが、森鴎外の小説だと、厨子王丸によって経営者としての山椒大夫が存続し続けることとなる。それも、これまでより富み栄える存在として存続し続ける。
これがSDGsに沿うビジネスを展開するということではないかと、本書を読んで私は感じた。