德薙零己の読書記録

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

田島奈都子著「戦前期日本のポスター:広告宣伝と美術の間で揺れた50年」

モチベーションアップ株式会社という会社がある。

こういったポスターを作って売っている会社である。

モチベーションアップ株式会社のポスター例

このポスターは、目にしただけでやる気を無くし、モチベーションアップどころかモチベーションダウンに誘うだけのポスターとするしかない。

このポスターに対する感情はどこから来るのか。

頭の悪さとケチくささである。

現状に問題があることは理解しているが、その問題を解決するだけの知力もないし、他社から適切な現状問題解決手段を提示されても、ケチ臭いために出し惜しみする。そこで1万円を払えば解決するのに1000円の節約を100回繰り返せて10万円の余計な支出をさせるという、合理的な考えを持たない残念な人にとって、責任は上層部ではなく個々にあるとし、ノルマだけ課して報奨は用意せず、ノルマをこなせないとなったら容赦なく罵倒するという、絶望的な職場環境がそこにはある。

もっとも、このようなポスターにも需要が存在している、してしまっている。何しろ上層部のミスを全部問題ないこととして見逃してくれる上に、責任は全て現場にあるという思考だ。何ら負担すること無しに責任だけ押しつけ、ノルマを達成したらノルマが前例になって次の基準となって、次回のノルマ未達成時の罵倒の材料となる。ここにノルマ達成に対する報償という概念は無い。

 

従業員に負担だけを命じ、負担に見合った結果を全く用意しない。また、その負担に対する具体的なアイデアも示さず、ただただ精神論でさらなる苦痛を強要するというものは、20世紀の共産主義国北朝鮮を念頭に置けば21世紀も)のポスターにも言える。威勢の良いことを書き記してはいるものの、そこにあるのは抽象的な内容に終始し、それをやったらどれだけのメリットがあるかなど全く示さない。上は何ら負担せず、ただただ下に苦役を押しつけるだけの構造である。

 

共産主義のポスターの例

共産主義のポスターの例


共産主義のポスターやモチベーションアップ株式会社のポスターを日本国は笑えない。戦前戦中のポスターの中でも特に戦争賛美のポスターは、共産主義の中身のないポスターや、モチベーションアップ株式会社の精神論全開のポスターと同一である。特に、頭の悪さが同一である。

頑張ることを強要するだけで、頑張ったらどれだけのいいことがあるのかを全く記さない。ただただ苦役を強要し、堪え忍ぶことを美徳とする。そのようなポスターを見てどうやって意欲を沸き立たせろというのか。

戦前のポスターの中には現在も申し分無しに通用するポスターが多々存在する。女性を性的に扱っているポスターや、差別としか言いようのないポスターは論外であるが、そうではないポスター、現在のコンプライアンスの観点でも文句なし、広告効果としても問題なしというポスターは、数多く存在する。

そうしたポスターの歴史の末にできあがってしまった戦争賛美のポスターは、ただただ見ただけで意欲を無くす効果しか持たないポスターになっている。

もっとも、そのおかげで厭戦気分が広まって戦争に対する意欲が減るという効果はあったかも知れない。

それがどのようなポスターなのかは、こちらの本を参照いただきたい。