德薙零己の読書記録

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鶴間和幸著「始皇帝の愛読書:帝王を支えた書物の変遷」(山川出版社)

始皇帝の悪事の一つ、焚書坑儒
本書にも始皇帝焚書の様子は秦始皇帝本紀や李斯列伝からの転記として載っている。それらの様子は本書を読んでいただきたいが、その前に大前提がある。

本を焼くということは、始皇帝の時代に焼けるだけの本が既に存在し、書籍が広く流通していたということである。また、焚書といっても全ての本を焼くわけではなく、医学書と農業書と言った実用書は焼かなくても良いとしている、つまり、実用書が日常で用いられる社会が既に成立していたわけである。

そうした書籍を愛読していた一人が、他ならぬ始皇帝自身だ。秦の国王として戦国時代を生き、勝ち残るために書籍に学び、書籍を活かして政務を遂行したことで、秦は中国大陸を統一し、国王は自らを皇帝と称すようになった。

当時の書籍は現在のような紙の書籍ではなく、簡牘(かんとく)、すなわち、細長く切った竹や木片である。かさばるし、重い。それに、高価だ。今の本のように気軽には読めないし、手に入れるのも一苦労するのが当時の本だ。

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国王だからこそ本を手に入れることができ、読むことができたとも言える。中国大陸を統一して自らを皇帝と称すようになったのちに焚書に取りかかったのも、他ならぬ始皇帝自身が本の有用さを理解していたからこそ、本を危険と見なして焚書を命じたのだ。

これで始皇帝は永遠の権力を構築できたと考えたのかもしれない。だが、始皇帝の妄想は失敗に終わった。始皇帝の権力は本人の死を契機としてただちに消滅へと向かった一方、滅ぼそうとした本の方が現在まで続く学問の根幹を成しているのだから。