今日のJリーグの試合を観たあと、この本のことを思い浮かべた。より正確に言えば、元浦和レッズ選手の槙野智章氏のTweetを見て、アダム・グラント氏の THINK AGAIN を思い出した。
自分達のホームの電光掲示板に
— 槙野智章 (@tonji5) 2023年4月23日
粋なメッセージを!
川崎フロンターレありがとう😊 pic.twitter.com/yxZMLBpzvk
今日のJ1リーグ第9節、川崎フロンターレvs浦和レッズの試合後、試合会場となった等々力陸上競技場では、Jリーグをあまり知らない人にとっては信じられない光景が繰り広げられた。川崎フロンターレのホームスタジアムである等々力陸上競技場が、浦和レッズへの声援の場に変わったのである。
浦和レッズはAFCチャンピオンズリーグ決勝に駒を進めており、本日の試合終了後、ただちに決勝第1戦の試合会場となるサウジアラビアのリヤドに向かう。その浦和レッズに対し、等々力のビジョンに「掴み取れACL! 頑張れ 浦和レッズ!」の応援メッセージが映し出され、川崎サポーターからの声援が送られた。
Jリーグクラブの,そしてサポーターからのこのような光景は珍しいことではない。今回は声援を受ける側であった浦和レッズも、1999年5月3日に、現在のAFCチャンピオンズリーグの前身である大会であるアジアクラブ選手権で優勝を掴んだジュビロ磐田の選手達を拍手で迎え入れた。
これは何も、偉業に挑もうとしている相手や偉業を手にした相手への声援だけではない。経営問題で苦難に喘いでいる相手への声援もあるし、自然災害に直面している相手への支援もある。横浜フリューゲルスや、鳥栖フューチャーズについて覚えている人も多いであろう。
また、東日本大震災でホームでの試合開催が困難となった鹿島アントラーズに対し、本来なら5月にカシマ、9月に埼玉スタジアムでの試合開催の予定を入れ替え、5月に埼玉、9月にカシマへと入れ替えたことも記憶している人は多いであろう。
私が浦和サポーターということもあってどうしても浦和にからむ話ばかりになってしまうが、他のクラブもそれぞれの形で他のクラブが偉業に挑もうとするときには声援を送り、苦境に喘いでいるときには手を差し伸べている。それがJの文化だと言える。
もし、アダム・グラント氏がJリーグのこの光景を見たら、驚愕するか、あるいは理想が実現した社会があると感歎するであろう。THINK AGAIN の Chapter6 は「『反目』と『憎悪』の連鎖を止めるために」と題して、敵対する集団の相互反目、あるいは、一方的に敵視する集団に対する憎悪を描いている。
本書の舞台はアメリカであるため、共和党と民主党との相互憎悪や、白人至上主義者が黒人をはじめとする有色人種に対してどのような憎悪感情を抱いているかを、アメリカの社会情勢を軸として記しているが、節の中に描かれている憎悪の中に、スポーツを愛する人なら注目せざるを得ない記載がある。
ボストン・レッドソックスとニューヨーク・ヤンキースとの対立だ。レッドソックスファンは試合中にヤンキースを罵倒する歌を歌うが、その試合はヤンキース相手の試合ではない。対戦相手がヤンキースでなくても、レッドソックスのファンはヤンキースを攻撃し続ける。
レッドソックスファンにとってヤンキースのピンストライプは許されざるデザインであり、ヤンキースを罵倒するTシャツはレッドソックスファンにとっての大ヒット商品となり、レッドソックスファンはヤンキースが負けることがレッドソックスの勝利に匹敵する価値があると考えている。
レッドソックスファンが仮にヤンキースを応援することがあるとすればどういうケースかを質問したら、「ヤンキースがテロ組織アルカイダと対戦するときだな」という答えが返ってくる。それだけの憎悪が存在している。
これは何もレッドソックスファンに限った話ではない。アメリカに限った話でもない。野球に限った話でもない。自らの所属を考えたとき、敵対すると考えられる別の集団に対して敵愾心を抱き、相手を見下し、執拗に攻撃する。これは珍しいことではない。
アダム・グラント氏は、どうすればこの憎悪をかき消して相互に理解できるかを考え、その実践例を挙げている。そのアダム・グラント氏がもし、今日の等々力を目にしたら、そして、日本のJリーグを目にしたら、驚愕するか感歎するであろう。
無論、Jリーグが全ての理想を満たす理想郷というわけではない。問題も多く抱えている。アダム・グラント氏が Chapter6 に記したような敵愾心の強さから荒れる展開になることもある。しかし、あるべき姿がどのようなものであるかを考え、相手を支え、相手をリスペクトする姿勢も存在する。
これは誇るべきことだと思うし、今後も続けていくべきことだとも思う。