德薙零己の読書記録

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

橘木俊詔著「日本の構造:50の統計データで読む国のかたち(講談社現代新書)」

不安定な職に就くしか無い。
職に就けたとしても給与が低く勤務条件が厳しい。
そもそも職に就けるかどうかが怪しい。
これらのどこにも自己責任という言葉の入る余地がない。

どのような理由が就業を左右するのか。
この国の就業を左右するのは、学力でも、学歴でも、努力でもなく、卒業年である。卒業したタイミングの景気が良ければ満足いく就職先に出会うことができ、景気が悪ければそもそも就職できるかどうかが怪しくなる。
しかも、その一度のタイミングが人生を左右する。
不安定で、給与が低く、勤務条件も厳しい職に就いている人が挽回することは難しい。事実不可能とも言える。

この結果がこの国の幸福度を下げている。満足いく就職ができたとしても給料が上がらない、満足いかなかったら給料は下がる、このような社会情勢にあっていったい誰が幸福感を抱けるのか。
しかも、ついこの間まで世界第二位の経済大国として君臨していたし、その頃に良い思いをした人達が親や祖父母として健在である。大きくなったらこのように恵まれた暮らしができると考えて、我慢して、努力して、ようやくいい思いできる未来に飛び込めると思ったら、待っていたのは絶望的な不況でまともな就職もできない未来だったというとき、誰がその状況に満足できようか。

これが30年続いてきた日本国の現在位置である。
苦しい思いをしてきた人達は国の責任で最低でもプラスマイナスゼロにまで持っていかなければならない。それは良い思いをしてきた人に良い思いを取り上げるのではなく、良い思いをしてきた人と同じだけの良い思いを、苦しい思いをしてきた人達もできるよう国で保証することである。

これでようやく失われた30年は取り戻すことができる。
これらできもしない妄想の話であるが……