德薙零己の読書記録

お勧めの書籍や論文を紹介して参ります。

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井上純一著「逆資本論」(星海社コミックス)

現代の日本国の置かれている状況をどうにかしなければならない、日本国の財政問題をどうにかしなければならない、地球規模の環境問題をどうにかしなければならないと考えない人はいない。本書もその視点から現在の問題を分析し、また、数多の書籍からの引用を載せている。

同様の書籍は書店に行けば数多く並んでいるが、マンガである本書は珍しいと言える。さらに、320ページという大著でありながら、紙では1210円、Kindleでは1177円という値段であるのは驚異だ。本書で否定しているデフレを本書自身が起こしている皮肉もあるが、それは著者の経営戦略の一環である。

さて、本書の訴える内容であるが、まずは斎藤幸平氏の著した人新世の「資本論」(集英社新書,2020年)の否定から入り、低成長のもたらす社会の悪化と貧困への片道切符を訴え、次に地球環境の問題に対して、現状分析と今後の展開について述べている。

しかし、問題の解決策として記しているのが社会運動としての間断無き問題提起となっている。この点で著者はマルクスの思想を肯定し、その思想に基づく行動を肯定して、冷笑的姿勢を本書は非難しているが、これは多くの人から受け入れることが難しいものであろう。

昨日投稿したフィリップ・コトラーの「『公共の利益』のための思想と実践」
ミネルヴァ書房,2022年)と本書は同じ問題に目を向けていると言えるが、解決方式は大きく異なる。どちらが結果を出しているかと言えば、コトラーのほうである。

rtokunagi.hateblo.jp

資本論を読み、共産主義に希望を見いだしていた人からすれば、マルクスの否定から入る本書は気に入らない部分が多いであろう。
資本論を理解し、共産主義の過ちと現実を知る人からすれば、マルクスの理論に立ち返る本書は気に入らない部分が多いであろう。

問題定義としては素晴らしい著作である。だが、これは10年前のピケティにも言えることであるが、そして、マルクスにも言えることであるが、問題解決手段は非現実的で、かつ、メリットを生み出さない内容であると言える。その結果がどうなったかを歴史は語っている。