德薙零己の読書記録

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ジョナサン・ハスケル&スティアン・ウェストレイク著,山形浩生訳「無形資産が経済を支配する:資本のない資本主義の正体」(東洋経済新報社)

リンク先をクリックして Amazon の本書のページに飛んでみるとおわかりいただけると思うが、本書は、現代経済に対する我々の理解を一変させる、極めて示唆に富んだ洞察に満ちた本としてビル・ゲイツ氏が絶賛したことで著名となった本である。

無形資産の領域に踏み込んだ著者らは、無形投資がいかに経済成長と価値創造の原動力となっているかについて説得力のある分析を提供している。
綿密に調査され、見事に表現されたこの著作の中で、ハスケル氏とウェストレイク氏の二人の著者は、無形資産に目を向けることで物的資産だけが繁栄の原動力であるという従来の常識に挑戦している。
すなわち、知的財産、データ、ブランド価値、人的資本などの無形資産が、今や経済生産性とイノベーションの最前線にあることを説得力を持って論じているのが本書であり、有形経済から無形経済への深刻なシフトを浮き彫りにすることで、著者らは企業、政策立案者、そして社会全体への劇的な影響に本書において光を当てている。

本書の強みのひとつは、複雑な経済概念を非常にわかりやすく提示する能力にある。両者は、実証的な証拠、現実世界のケーススタディ、魅力的な逸話を巧みに織り交ぜて論旨を説明している。私は原著でなく日本語訳の本書を読んだが、原著を読んだ人によると、原著に記されている原文の文章は、ストーリーはシームレスに流れ、著者たちの専門知識はすべてのページを通して輝きを放ち、最も抽象的な概念でさえ、専門家にとってもそうでない人にとっても理解しやすいものとなっている。日本語訳された本書を読んだ私も、翻訳者である山形浩生氏の素晴らしい訳のおかげで原著を読んだ方々が味わったのと同じ思いを得ることができている。

両者は、無形資産の正確な測定と評価の難しさ、投資と金融への影響、所得格差への潜在的影響など、無形経済がもたらす課題を探求している。また、イノベーションと包括的成長を促進するために、教育、競争、知的財産権、税制へのアプローチを各国政府に適応させるよう促している。

本書の特徴は、その関連性と時宜性にある。急速な技術進歩によって定義され、データやアイデアの価値が物理的な財の価値を凌駕する時代において、『資本なき資本主義』はこの新しい経済状況を理解し、ナビゲートするための包括的な枠組みを提供する。起業家、エコノミスト、政策立案者、そして現代世界を形成している諸勢力を把握することに関心のあるすべての人々にとって必読の書である。

本書は無形経済について説得力のあるビジョンを提示する一方で、このパラダイムシフトに伴う潜在的な落とし穴やリスクを認めることから逃げてはいない。二人の著者は、無形資産から生まれる莫大な機会を強調する一方で、無形資産が従来のビジネスモデルや労働市場にもたらす潜在的な課題に注意を促し、バランスをとっている。

なお、続刊とも言うべき「無形資産経済:見えてきた5つの壁」も先日日本語訳が刊行されておりので、本書を読んで無形資産と資本主義との関係により深い関心を抱いた人は是非とも購入して読んでいただきたい。