昨日公開した、ジョナサン・ハスケル&スティアン・ウェストレイク著,山形浩生訳「無形資産が経済を支配する:資本のない資本主義の正体」(東洋経済新報社)の続編である。
前作では、知的財産、データ、ブランド価値、人的資本などの無形資産が経済生産性とイノベーションの最前線にあることを記したが、本作ではその中で、
- 経済停滞
- 格差拡大
- 機能不全の競争
- 脆弱性
- 正統性欠如
という5つの問題があることを書き記している。特に、前作から本作までの間にCOVID-19という予期せぬ世界的危機が発生し、ロシアのウクライナ侵略という平成時代の人が聞いたら耳を疑うような現実を迎えていることが、前作から現在に至るまでの間に新たに露顕した問題とその解決点を本書で求めている。
前もって記しておくが、こうした問題点はロシアの侵略が生み出したものでも、COVID-19が生みだしたものでもない。世界経済が、機械、建物、土地といった有形資産よりも、アイデア、人間関係、ブランド、知識といった無形資産に依存する経済への適応に失敗したことに起因すると主張しているが本書である。
その上で、金融、都市、科学、金融政策、知的財産など、経済を支える諸制度を改革し、無形革命に追いつき、より豊かで公正かつ持続可能な未来を創造するための、ドラスティックであるものの実践的な解決策を提案している。
- 教育と訓練への投資
- 競争の促進
- 知的財産権の強化
- 税制改革
などがその解決策である。より豊かで公平な未来を作るためには、これらの改革が不可欠であると主張しているのが本書である。
本書を読む前に前著を読んでいただきたいところであるが、前著を読むことなく本書を読んだとしても説得力のある本であると感じることができるはずである。著者は無形経済について明確かつ簡潔に概観し、改革の必要性を力説している。また、本書は現実の世界で実施可能な実践的な政策提案に満ちている。
私は、これからの経済、これからの暮らしに関心のある全ての人に本書を強く推薦する。本書は、より豊かで公平な未来を創造するための明確なビジョンを提示する重要な一冊である。