德薙零己の読書記録

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ロバート・コンクエスト「悲しみの収穫 ウクライナ大飢饉:スターリンの農業集団化と飢餓テロ」(恵雅堂出版)

この世に地獄が存在するなら、それはこのような光景だろう。

1929年に始まった世界大恐慌
通説によると、全世界を不景気に追い込んだ大恐慌ではあるが、共産主義革命を実現させたソビエトは恐慌の影響を受けなかったというが、実際には影響を受けなかったどころか、当時、地球上最悪の影響を被っていた。

失業率は25%に達し、食糧配給は途絶え、一人あたりの配給量はソビエトの法の規定している供給量の半分に減らされた。
小麦の配給も乏しいことから小麦以外の材料を混ぜ込んだパンも作られたが、混ぜ込む材料の中には廃屋の屋根も含まれた。

ソビエトの法により医療は全て無料となっていたが、満足いく医薬品も無く、それ以前に充分な栄養も摂れないため、多くの人が亡くなった。
この時代のソビエトの死因第一位は、餓死。
しかし、医師は診断書に餓死や栄養失調という語、あるいはそれらを類推する語の記入が禁止された。

中でも最悪の地獄を体験させられたのがウクライナだった。

スターリンウクライナからありとあらゆるものを略奪した。穀物も、家畜も、そして家も、そして人も略奪した。

来年の作付けに必要な種籾も無くなったのに収穫を上げることをノルマづけられ、収穫を残せなかった者は反革命的として強制収容所に連行された。

強制収容所では1日18時間の重労働が課せられた。強制収容所で配給される食糧は1日合わせてようやく1200キロカロリーに達するかどうかという粗末な食糧だけ。多くのウクライナ人が強制収容所の中で遺体となってしまった。

それでも強制収容所に収容された人はまだ幸せだった。このときのウクライナ人の一日あたりの平均摂取カロリーの6倍を得ていたのだから。

何も食べるものが無くなった人、そしてあふれる遺体。

この二つが合わさったとき、一つの答えを生み出してしまう……

 

このときのスターリンによるウクライナ人大量虐殺のことをホロドモールという。

本書はホロドモールで起こった悲劇を書き記している一冊である。

そして、プーチンの侵略になぜウクライナは抵抗するのかの答えを明瞭に示してくれている一冊である。

答えを簡潔に記すと、無抵抗の末にどうなったかをウクライナは知っているからである。

先に記しておくが、本日の記事の冒頭部に記したのは、ホロドモールのうち、まだ書き記すことができる範囲だ。

ホロドモールの詳細を知りたければリンク先を参照いただきたい。

ただし、一つだけ記しておかねばならないことがある。リンク先の記事の内容ですら、まだまだマイルドな表現なのだ。

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