德薙零己の読書記録

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塩崎省吾著「ソース焼きそばの謎」 (ハヤカワ新書)

ソース焼きそばは何とも奇妙な料理である。中華料理で多く用いられる麺を炒め、イギリス原産のウスターソース出味付けをした料理であるが、この料理がどこの国の料理家と問われると、日本国の料理と答えることとなる。それでいて、日本国の料理であるこの料理が日本中に普及するようになったのはいつかと訊ねると、それほど長い歴史を感じることはできない。

本書は、ソース焼きそばがいつ頃誕生し、どのように日本中に普及していったかをまとめた一冊である。と同時に、ソース焼きそばが、料理に用いる素材の実態は違うのに、「粉モン」として思い浮かべる料理と並列でイメージづけられる料理であることの理由も書き記している。

詳しくは本書を読んでいただきたいが、ソース焼きそばは現在の日本国の多くの料理と同様に、戦後の食糧難の影響を受けている。ソース焼きそばの誕生は、もっとも古い記録では日清戦争後まで遡ることができるが、日本中に広く普及した理由は戦後の食糧難である。

理由は簡単で、ソース焼きそばの材料ならばどうにか手に入ったのだ。コメも、醤油も、砂糖もなかなか手に入らない環境で、中華麺と、キャベツと、ウスターソースならばどうにか手に入った。あとは鉄板と燃料があればソース焼きそばを売ることができるし、白米を食べるのが難しくてもソース焼きそばだったら食べるチャンスがあったのだ。ただし、そこはヤミ市である。

ヤミ市と聞くと怪しさを感じるが、ヤミ市が亡ければ日本人の多くは餓死を免れなかった。それほどまでに戦後日本の食糧事情は厳しかった。配給で摂取できるカロリーは成人男性の必要量の6割しかない、すなわち、40%近くをヤミ市や買い出しで手に入れた食糧でしのいでいた。その状況がソース焼きそばを生み出した。

ソース焼きそばは一つの料理が日本全国に広まったのではなく、その土地で手に入れることのできる素材を活かした料理が各地に根付いた。そのため、一見すると一種類しかないと思われるソース焼きそばは、各地で特色のあるソース焼きそばが誕生することになった。

それがどのほどのものかは、以下の表を参照いただければ御理解いただけるであろう。B-1グランプリの結果である。過去12回開催されたB-1グランプリのうち、グランプリを受賞した料理は5回が焼きそばなのだ。

開催日程 開催地 グランプリ
2006年2月18日~19日 青森県八戸市 富士宮やきそば
2007年6月2日~3日 静岡県富士宮市 富士宮やきそば
2008年11月1日~2日 福岡県久留米市 厚木シロコロ~ホルモン
2009年9月19日~20日 秋田県横手市 横手やきそば
2010年9月18日~19日 神奈川県厚木市 甲府鳥もつ煮
2011年11月12日~13日 兵庫県姫路市 ひるぜん焼そば
2012年10月20日~21日 福岡県北九州市 八戸せんべい汁
2013年11月9日~10日 愛知県豊川市 なみえ焼きそば
2014年10月18日~19日 福島県郡山市 十和田バラ焼き
2015年10月3日~4日 青森県十和田市 勝浦タンタンメン
2016年12月2日~3日 東京都江東区 あかし玉子焼
2019年11月23日~24日 兵庫県明石市 津ぎょうざ