德薙零己の読書記録

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おじいちゃんといっしょドラッカー講座朱夏の陽炎

P. F. ドラッカー「創造する経営者」(ダイヤモンド社)

ドラッカーの名著の一冊としても有名な「創造する経営者」は、現在では否定されている目標管理を打ち出しているなどの過ちがあるものの、基本的にはさまざまな分野のリーダーたちを導き、鼓舞し続ける不朽の名著であることに違いはない。特に、未来に対するアドバイスとして「未来を築くためにはまず初めになすべきは、明日何をなすべきかを決めることでなく、明日を創るために今日何をなすべきかを決めることである」という言葉は、これからの社会に企業が生き残る、そして、今後の発展を見いだす方策として、時代に乗るのではなく未来を創造することを主張したことは画期的である。

とは言え、ドラッカーは何もゼロから未来の創造を打ち出したのではない。効果的なマネジメントとリーダーシップに関する洞察の末に導き出した答えであり、ドラッカーが指摘することで言語化されたものの、概念としては以前から存在していた話である。その概念がドラッカーによって言語化され、明瞭化されたことで現代のビジネス慣行を形成し続けている。マネジメントの第一人者としてのドラッカーの専門知識は紛れもないものであり、彼は数十年にわたる経験を、その有効性を高めようとするエグゼクティブのための簡潔で示唆に富むガイドに凝縮している。

また、本書の中心テーマの一つとして、「有効性は学び、培うことができる」という考えを軸に展開されていることが挙げられる。ドラッカーは、優れたリーダーは生まれながらにして生まれるのではなく、特定の実践や習慣を身につけることによって作られると主張している。このあたりは古今東西のリーダーを見てみると、リーダーとして生まれた者だけでなく、リーダーたることを務めた者も数多くいることに気づかされる。現時点ではまだ評価するには性急に過ぎるかもしれないが、侵略者に立ち向かっているゼレンスキー大統領は、リーダーとして求められるのはどのような行動と言動であるかを理解し、その通りに行動し発言している好例である。

リーダーによく見られることとして、多忙であることがある。ドラッカーは多忙を有能と同義ではないことを強調している。多忙であることは認め、その上で真に重要なことに集中するよう経営者に促している。その上で、本書の中で組織の目標に貢献する仕事とそうでない仕事の違いを理解し、時間とエネルギーを効率的に配分する方法を読者に伝授している。

上記に関連して、本書では意思決定の重要性もまた強調されており、ドラッカーは適切な意思決定を行うための体系的なアプローチを提供している。関連情報を集め、それを徹底的に分析し、組織への潜在的な影響を考慮した上で結論を出すことを提唱している。意思決定のプロセスに関するドラッカーの洞察は、リーダーが複雑で不確実なビジネス環境を乗り切らなければならない現代においても、非常に貴重なものである。

後にドラッカーの主張の主軸となる知識労働の概念も本書には登場している。知識労働の重要性とそれがもたらす課題を認識し主張していることも本書において重要な視点である。ドラッカーは、知識労働者は肉体労働者とは異なり、伝統的な意味での監督を受けることはできないと強調しており、その代わりに彼らは最高のパフォーマンスを発揮できるように指導され、動機づけられる必要があるとしている。この洞察は、多くの産業が知識ベースの仕事にますます依存するようになっている今日においても、極めて重要である。

本書は、より効率的で影響力のあるリーダーを目指すすべての人にとって必読の書であると同時に、人を束ねることはどういうことか、どうすればリーダーとして結果を残せるかを示している良書である。